一なる騎士
「いや、それは……」
あなたの服の趣味が悪すぎるからではないのかと、言いかけてやめる。
彼が着ているような服を贈られてもサジェルは着るどころか、捨てるに捨てられずさぞや困っているだろうことが想像に難くない。しかし、自分の趣味に絶対の自信を持っているこの男に言ってみても無駄なだけだろう。
「君もサジェルも意固地なところはそっくりだ。血のつながりとは怖いものだね」
彼はようやく腰を上げると、馬の手綱を引いてリュイスの側にたった。
セイファータの美しい城を眼下におさめた彼は、いつも口元に浮かべている薄ら笑いをふいに引っ込めた。それだけで面差しが引き締まる。年相応の男の顔に見える。別人のよ
うに。
「義兄上?」
「ここなら、父の目も届かない」
意外なほど重々しい声が言う。
「え?」
「城内では、父の耳に入らないことはない。特に君に関してはね」
彼は振り向くと、にっと笑った。
「僕も父の息子だということさ」
リュイスの手が剣の柄にのびる。
無意識のしぐさだった。
丸腰なうえに、奇矯な格好をした義兄。
ただゆったりと自然体で立っている。
けれど、そんな彼にリュイスは油断のならない剣呑なものを感じていた。
「そんなに警戒することはないさ。僕は君の味方だ。いや、レイルとサジェルの味方だと言った方が信用するのかな。僕は彼らをとても愛しているんだよ」
不思議なほどに優しい口調で語られた姉と甥の名に、リュイスは我に返った。
肩から力を抜き、剣の柄にかけていた手を放す。
そうだ、この男はサジェルの夫にしてレイルの父。そして、また彼らの命運を握るものでもあるのだ。
「やれやれ、騎士と言うものは、物騒でいけない」
咎めるように灰色の瞳が見上げてくる。
なぜ今まで気がつかなかったのだろう。
その瞳が鋼の色を帯びていることを。
あなたの服の趣味が悪すぎるからではないのかと、言いかけてやめる。
彼が着ているような服を贈られてもサジェルは着るどころか、捨てるに捨てられずさぞや困っているだろうことが想像に難くない。しかし、自分の趣味に絶対の自信を持っているこの男に言ってみても無駄なだけだろう。
「君もサジェルも意固地なところはそっくりだ。血のつながりとは怖いものだね」
彼はようやく腰を上げると、馬の手綱を引いてリュイスの側にたった。
セイファータの美しい城を眼下におさめた彼は、いつも口元に浮かべている薄ら笑いをふいに引っ込めた。それだけで面差しが引き締まる。年相応の男の顔に見える。別人のよ
うに。
「義兄上?」
「ここなら、父の目も届かない」
意外なほど重々しい声が言う。
「え?」
「城内では、父の耳に入らないことはない。特に君に関してはね」
彼は振り向くと、にっと笑った。
「僕も父の息子だということさ」
リュイスの手が剣の柄にのびる。
無意識のしぐさだった。
丸腰なうえに、奇矯な格好をした義兄。
ただゆったりと自然体で立っている。
けれど、そんな彼にリュイスは油断のならない剣呑なものを感じていた。
「そんなに警戒することはないさ。僕は君の味方だ。いや、レイルとサジェルの味方だと言った方が信用するのかな。僕は彼らをとても愛しているんだよ」
不思議なほどに優しい口調で語られた姉と甥の名に、リュイスは我に返った。
肩から力を抜き、剣の柄にかけていた手を放す。
そうだ、この男はサジェルの夫にしてレイルの父。そして、また彼らの命運を握るものでもあるのだ。
「やれやれ、騎士と言うものは、物騒でいけない」
咎めるように灰色の瞳が見上げてくる。
なぜ今まで気がつかなかったのだろう。
その瞳が鋼の色を帯びていることを。