一なる騎士
　真顔で、しかもため息つきで否定されると、この異様に目に悪い風体が彼の趣味なのかそうでないのかリュイスにはとても判断がつかない。あいまいに相づちを打つのが、精一杯だった。

「……、そ、そうですか」

「君とはひとつちゃんと話をしておきたかったんだ。城には父の子飼いの精霊使いがいるから、下手なことは言えなかったし、それ以前と来たら君には目の敵にされていたからなあ。話を聞いてくれるどころか、遠乗りの誘いすら応じなかったろう」

　言葉の端はしに軽さが混じるが、エイクの瞳の奥に宿る鋼の輝きは揺らがない。
　リュイスは気圧されぱなっしだった。

「それは……、申し訳ない」

「謝ることはないさ。無理もない話だからな。大事な姉君を盗られた相手を普通はよくは思わない。しかもあんな手を使われてはね」

　父はもともと一介の貧乏騎士に過ぎなかった。
　しかも母との身分違いの結婚のために降格の上、辺境に追いやられた。
　生活はいつもぎりぎりだった。借金をたびたび重ねざるを得なかったほどに。

　取り立てが厳しくなった頃、セイファータ公爵が、借金の肩代わりを申し出てきた。サジェルを、次代の『一なる騎士』の母を、息子に娶ることを条件に。

　むろん、あからさまな申し出ではなかったが、けっきょくはそういうことだったのだ。


　あのとき、自分は何もできなかった。

　生活が逼迫したのは、リュイスが『一なる騎士』として宮廷に伺候するようになったためということもあった。息子が宮廷で恥をかかぬようにと、父は無理をしたのだ。



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