年下の君に恋をして
「ねえ、ずっと気になってたの。あなたは『本当の俺はいない』みたいな事言ったよね?

あれはどういう意味なの?」

「俺が中学に上がるちょっと前だったと思う。珍しく酔って帰った親父に、俺は絡まれたんだ。

『お前を見てると、お前の母親を思い出す』と言われた。『どうせお前もいつかは、俺を捨てるんだろ?』って言って、親父が泣いたんだよ。

親父はお袋の事が忘れられないんだと、その時知ったんだ。祖母ちゃん達から何度言われても再婚しないのは、そのためだと思う。

俺はその時思ったんだ。親父を悲しませたくないって。いい子になって、お袋の罪を俺が償おうって。ガキのくせにな。

俺はそれ以来、家では従順ないい子。学校ではまじめな優等生を演じて来たんだ。ま、自分ではあまり演じてるって意識はなかったんだけどな。

でも最近になって、それは違うんじゃないかと思うようになったんだ。
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