だから君に、恋をする。

―女を怖いと思ったのは初めてだ。

「―――…ッ」

ぎゅっ、と、目をつむった。
四肢は凍り付いて動かない。

――やられる。

何かはわからないが、やられる。
そう、確信、した、のに。

「……?」

一向に何かは起こらなかった。そっと、目を開く。…すると。

「……ぷっ…」
「…あま、かわ…?」

そこには、心底おかしそうに笑う、天川カレンの姿で。

「あのー…天川…?」
「ふふ、冗談よ俊樹くん。おもしろいのね?」

不覚にも、ちょっと可愛いなとか思ったり思わなかったりするわけだが。

「…天川。」
「ごめんなさい、怒らないで…ふふ。」

うっすら涙がにじんでいる。…そこまで笑うか、普通。ちょっと傷つくガラスハート。

「…じゃ、そろそろ帰りましょ?今日は生徒会もないし、よかったら一緒に。」
「…ぇ…あ、あぁ。」

…思い過ごしか。
目の前の天川カレンは、至って普通の女の子で。あぁなるほど、勇人が好きになるわけだな、と思ったり。

「そうだな。帰ろうか、天川。」

これなら心配ないかな。
好奇心は、完全に消えたわけではないけど。

「えぇ……俊樹くん。」

不安は、消えたようだ。









そうして、俺らは二人並んで帰った。
おしとやかな女の子かと思ってた天川の、意外な趣味――例えばプロレスが好きだったりとか、まぁ、クラスの奴らが知らないようなことを沢山知った気がした。

…ちょっと、天川のことを知れた気がする。

「それじゃ、また明日ね。」
「あぁ、気をつけろよ。」
「えぇ、ありがとう。色々寄り道してごめんね。…じゃあまた。」



…アレが、"もう詮索しないように"という最後の警告だったとは、この時の俺は知らなかったのである。




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