短編集 僕らのヘヴン
みつからない
「いい加減、これやめようか?」
「‥なんで?」
「わたし、おかしくなっちゃうよ」
いつものように「おかえり」のキスを交わして、
ぎゅ、っと強く抱き締め合う。
まるで体温を確かめ合うように、強く強く。
「俺、は‥優衣がすきなんだよ?」
「‥でも、わたしはケンのこと好きじゃない」
どうして泣くの?
「大事に、するから‥」
「私はそれを望んでなんかいない」
「でも俺は優衣を手放すつもりなんかない‥!」
「‥もう、変な意地張るのやめてよ」
泣きたいのはわたしのほうだよ?
いつまでこんなことし続けるの?
「ただ、好きなだけなんだよ‥」
いつまでも感情のないキスを交わすのは嫌なの。
わたしを撫でる手のひらも、
わたしを映す綺麗な瞳も、
わたしの名前をなぞる柔らかい唇も、
全部、要らないから。
返して欲しいんだ。
あの頃の「好き」の気持ち。
(なくしたきもち)