短編集 僕らのヘヴン
へリオスコープ

もう少しだけ傍に居てよ。



貴方から半径1メートルの場所に居る時間が好きで、
ずっとこのまま、を願っていただけなのに。

私が何をしたの?
神様を傷付けた?



「‥っひ‥、ろ」
「ん、どうした?」
「て‥‥‥」
「手?」
「う、ん‥握っ、て」
「うん。」



私の体はもう自由が利かなくなっていた。
着替えも、お風呂も、トイレさえも自分でできない。

人の手を借りなければ生きていけない身体なのだ。



「はぁ‥はぁ‥」
「大丈夫?苦しい?」
「だいじょ、ぶ‥だから‥」
「うん?」
「お仕事‥行って‥も、いい、よ」
「でも‥」
「ここ、で、待ってる、から、ね」



強く握られていた手には汗が滲んでいて、その力が段々と緩くなるにつれて冷たい空気が私の手を冷やした。

行かないで、なんて我儘は言えないから、ぐっと堪えて「いってらっしゃい」をする。

最近、独りで居るのが怖くなってきた。それはこの病気の所為。
治る可能性はゼロで、悪くなる可能性はわからない。

もしも誰も居ない時に私が死んだら、私の抜け殻を、いつ誰が見つけてくれるのかな。



「‥ゴホンッ‥!」
「亜加里さん!どうしましたかっ?」
「息、がっ‥」
「ちょっとまって下さいね、すぐに楽になりますから!」



せわしなく機械音が鳴り響き、色んなものが私の体に取り付けられた。
呼吸ができずに、段々と意識が遠退いていく。

‥このまま死ねたらな。

そんな台詞が頭に浮かんだ。ひろを目の前にしたら、口が裂けても言えない台詞。

言いたいことがあるなら絶対言う、隠し事はしない。って約束したのに。



‥今日だけ。
今日だけは本音をぶちまけてもいいかな。



貴方と私の影が重なることは、もうないのだから。





(貴方は私にタイヨウを見せてくれた。)
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