甘い秘密指令〜愛と陰謀に翻弄された純情OL〜
お、大き過ぎる。
これが家なの?
美術館とか、そういう建物じゃないの?

閑静な住宅街にあって、その中でも一際大きい神崎邸を目の前にし、私は呆然と立ち尽くしていた。

「おい、固まってないで、行くぞ」

「うん…。私、恐くなっちゃった」

「これはただの家だ。これから会う奴らも、ただの人だ。俺達と何も変わらないんだ」

「うん、そうだね」

「そうさ。胸を張って、堂々としてろよ。西野裕子は、この俺のハートを射止めた、凄い奴なんだからな」

「うふふ。すごい言い方ね、神崎征一さん」

「よし、その笑顔だ。行こう」


「お帰りなさいませ」

大きくて重そうな扉が開き、黒い服を着た清楚な感じの女性が深々とお辞儀をした。

「ただいま」

「おじゃまします」

「いらっしゃいませ」

その女性にお辞儀をされ、私も同じようにお辞儀をした。

「はじめまして。わ、私は…」

「それはいいから」

自己紹介をしようとしたら、征一さんに腕を引かれた。

「あ、でも…」

女性はニッコリ微笑んでいた。

「おやじ、いる?」

「はい。楓の間でお待ちになられています。どうぞ、ご案内いたしますので」

「そう。あ、部屋は分かるから、いいよ」

征一さんは私の肩を抱くと、さっさと歩きだした。

「私、ちゃんと挨拶出来なかった。あの人は誰なの?」

「知らない。新しい従業員さんだろう」

「従業員さん?」

「ああ。この家にはそういう人が結構いるんだ」

やっぱり私、場違いな所に来ちゃったみたい…
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