無気力LoveStory
「…お前さ、彼方君知ってる?」
そこで佑耶君は急に真剣な顔を作った。
「九条、先輩?」
佑耶君の口から九条先輩が出てくるなんて意外だったけれど、彼方なんて珍しい名前はあまりいない。
そう思って恐る恐る聞き返せば、そう、と笑った。
「あの人、俺の憧れなんだよね」
「へ?」
あ、憧れ?
「頭いいしカッコイイし、運動神経抜群だし。その上誰にでも優しくて…好きな女だけ大切にできる」
悲しそうに笑いながら、佑耶君が独り言みたいに言う。
それでなんとなくわかった。
佑耶君はまだ彼女さんのことが好きなんだ。
「俺ね、結構誰にでも“優しい”って言われるんだ。彼女以外の女の子にも」
微笑みを浮かべたまま、彼は話す。
「だから、俺は大切にしてるつもりでも、彼女にとったら他の人と同じ扱いなんだって」
それが理由で、別れちゃったのかな。
優しさは佑耶君の一番の魅力だけど、彼女にとっては不安だったんだ。
「彼方君て誰にでも優しいじゃん?だけど俺とは全然違うんだ」
何がどう違うのか、聞こうとしたとき。
「あれ?佑耶じゃん」
よく通る男の人の声がした。