無気力LoveStory

だけど痛みは感じない。


ただ温かい感触。
どくん、どくんと脈打つ音。

「…やっぱり、無理だったでしょ」

脳に直接響くように聞こえる、テノールの声。


「え、先輩?なんで…」

抱きしめてるんですか?


そう続けようと思ったのに、思わず口を噤んだ。

頭を軽く押されて、胸板にくっつけるようにして力を強める。



そんな動作に心臓が煩くなって、何も言えなかった。


「俺は無理ってちゃんといったのに」

「……は…?」

「腕引っ張られて、静かなところに連れてこられて。抑えられる自信ないから嫌だって言ったし」

“なのに”

先輩が言葉を続ける中、ずっと周りは煩かった。

たしかにガヤガヤとしていたのに、ここだけは違う空間みたいにシンとしていた。


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