氷の女神
「降ろして?」

部屋のドアまでなんとかたどり着くと、俺は綾乃さんを降ろした。
しかし綾乃さんは今にも倒れそうだ。

「今日はありがとう」

「大丈夫なんですか?」

俺は綾乃さんの目を見ながら聞いた。

「大丈夫よ」

言葉とは裏腹に、綾乃さんの目は完全に虚ろだ。大丈夫なわけがない。

「看病してくれる人はいますか?」

綾乃さんは小さく首を振った。

「なら、俺が看病します。看病させてください」

「そんなわけには…」

「変な事はしませんから、僕を信じてください」

「分かったわ」

おそらく綾乃さんは、話を続けるのが余程辛かったのだろう。あっさり同意すると、バックからカードキーを取り出した。

その手が震えていたので、俺がカードキーを機械に通し、ドアを開けると、綾乃さんが倒れ掛かってきた。
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