氷の女神
「里中君…?」

綾乃さんは泣き腫らした目を開け、俺の顔をぼんやり見ている。

「そうだよ。綾乃さんは嫌な夢を見たんだね?」

俺は綾乃さんの涙と汗を拭いてあげながら、優しい声で言った。

「あの人は、本当にいない?」

あの人? 社長の事だろうか?

「僕達以外、誰もいないよ」

「もしあの人が来たら、守ってくれる?」

「ああ、俺が必ず綾乃さんを守るよ」

「約束よ。私を守ってね、里中君…」

綾乃さんは俺の首に手を周わし、抱き着いてきた。

「大丈夫。綾乃さんは悪い夢を見たんだ。僕がついてるから、安心しておやすみ?」

綾乃さんの頭を撫でながら言うと、綾乃さんはコクリと頷いた。

綾乃さんをベッドに寝かせ、俺の首にまわされた腕をそっと解いた。ちょっと名残惜しかったけど。

「ありがとう…」

綾乃さんは目をつぶり、すぐに眠り始めた。
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