氷の女神
「よお、俺は田中だ。よろしくな」

俺の席に行くと、隣の席から声を掛けられた。
窓際の端に綾乃さんの席があり、その左に俺が座り、その左が田中という男の席らしい。

「里中です。よろしくお願いします」

「分からない事は、何でも俺に聞いてくれ」

「はい。でも…」

俺は隣の綾乃さんに目を走らせた。俺の教育係は綾乃さんのはずなんで、何と答えてよいものか困った。

「おまえの言いたい事は分かるよ。色々教えてやるから、後で飯、一緒に行こうぜ?」

「はあ」

「主任。そういう事なんで、新人は俺が飯に連れて行きますね?」

綾乃さんを見ると、僅かに視線を下げた気がした。今のが『了解』って事なのか?
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