氷の女神
ほんの一瞬ではあったが、綾乃さんの手に触れた俺は、胸がドキドキした。綾乃さんの手は小さくて、柔らかだった。

「あの、これはどこへ移せばいいでしょうか?」

綾乃さんは俯いたまま、空のキャビネットを開けた。
よくは見えないが、頬が赤くなっている気がする。

「その中ですね? 分かりました」

ささっと机を綺麗にしたが、さて、次はどうしたらいいんだろう?

「里中君」

綾乃さんの蚊の鳴くような声が聞こえた。

「はい!」

思わず大きい声で答えると、綾乃さんは肩をビクッとさせ、どこかを指差した。
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