ボーダー
<ハナside>

空港のゲート近くで、彼を待った。
ミツにだけいろいろ言うとか、ずるい。

泣きそうなのを、必死に堪える。

「あと3年したら、ちょうど今ぐらいの時期には帰って来れるから。」

すると、私は隠し持っていたネックレスを彼の首につけた。
レンの誕生石をあしらったクローバーのネックレス。
無事カガク捜査官になれるように、そして、こっちでしたみたいな無茶をしないように。

空気を壊すようにアナウンスが流れた。

もっと、元気でねとか、向こうで好きな子とかできたら報告してねとか、言いたいことはたくさんあったのに。

放送のせいで頭から抜けてしまった。

"5時5分発ANA707便でN・Yへご出発のお客様、まもなく搭乗手続きが始まります。"

「時間でしょ?」

そう言って搭乗手続きの受付に向かおうとそちらに目をやった私の手が強く引かれた。
え、と思った瞬間には、レンの腕の中にいた。

何よ。カッコつけちゃって。
離れたくなくなるでしょ?
レンのバカ。

少し速い鼓動は、もしかしなくても、ちゃんと女の子として、私のことを見てくれてるのだろうか。

「寂しくなるなぁ。
元気でね?
レンも、大事な幼なじみだからさ。
向こうでちゃんとやれるか心配。
だけど、頑張るしかないよね、お互いに。

新しい環境になるけど、頑張ろ?

レンなら大丈夫だよ。」

やっと言えた。
好きな子ができたら云々は、言わずにおいた。
レンのことだ、言わずともきっと報告してくれる。

軽く頬に、柔らかい感触を感じた。

あれ?キス、ってやつ?

「じゃあな。」

気にも留めなかったように、口パクで伝えると顔を赤くしている私を見て微笑んだ彼。

彼は、私が口をだらしなく開いているうちに、ゲートの向こうに消えていった。

私とミツは、レンの乗った飛行機が雲の向こうに消えていくまで見守っていた。

なんか目の奥が熱い。
泣きそうだ。

今日で泣き虫を卒業する、って決めたのに。

「泣けよ。」

声と共に、ふわっとした温もり。
シトラスの香り。
ミツの香水だ。
この香りを感じると、安心できる。

……私の、大事な幼なじみ。

「嫌だ。
こんな人がいっぱいいるとこで……」

そうは言っても体は正直だ。
目からは涙が溢れている。

「ったく……。
ハナが強がってることなんて幼なじみのオレにはお見通しなんだからな。
そういう、強情なところ、オレは好きだけど。」

ミツは私に聞こえるか聞こえないくらいの声で呟いた。
すると、レンが狙撃された後の病院のときみたいに抱き寄せてくれた。

だけど、力はあの時より強くて。
なのに、痛くない、絶妙な力加減。

何かを伝えようとしてくれているのかな?


……そんな気がした。


こうして、幼なじみだった私たちは離れていってしまった。

だけど、レンは"絶対、日本に帰ってくる"って言ってた。


……信じてるからね、レン。

無事で、帰って来てね。


そして私たち3人が"再会"できるのは、彼が言った通り、本当に今から3年後のことだった。
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