ボーダー
「ん……」

目を開けたが、またすぐに閉じてしまう。
灯りが眩しい。

パーティー会場で、場の雰囲気に呑まれて、いつもより多くお酒を入れすぎた。

少し足元がふらついたのに、徹は気付いていてホテルの部屋まで運ばれたのは覚えている。

私の隣で横になっているのは、他ならぬ徹だ。

「徹?ごめん。
寝ててよかったのに。」

「明日香?起きた?
頭痛とかは、大丈夫なの?」

「大丈夫。ありがと。」

足元がおぼつかなくなった時点で、お酒はこれ以上飲むな、これ以上飲むと頭痛が起きるという身体からのサインだということはわかっていた。
逆に言うと、この時点ですぐに休めば、回復するのだ。

「明日香。
起きられるなら、窓の外見てみ?
ツインタワーの超いい眺めを独占できるよ。」

ライトアップされたツインタワーがキレイで、こんないい部屋、いくらしたんだろう、という現実的な考えが頭をよぎった。

「いいなぁこの景色!
徹も見ようよー!」

ベッドから起き上がって、徹の腕を引っ張る。

「分かりました。
ワガママ姫。
姫のご要望なら、何なりと。

景色、確かにキレイなんだけど。
景色よりキレイなものが目の前にあるのに、オアズケはキツいんだけど?」

ふいに徹が、私をベッドの上に組み敷く。
ベッドのスプリングが柔らかい。
なんてことを、考えている余裕はなかった。

「ね、明日香?しよっか。
あ、夫婦になるんだし、何を?なんて野暮なことは聞かないよね?」

もちろん聞かない。
分かってはいる。
この人と一生一緒に生きていく覚悟も、とうに出来ている。

整った顔が近づいて、深いキスをされる。

身体の芯まで溶けそうだ。
いつもより敏感なのは、お酒のせいか。

「あ、んっ……」

「んー?なぁに?明日香。
もっと可愛く鳴けるでしょ?
いい声で鳴いて?」

的確に、気持ちいいトコロを責めてくる。
さすが数週間後に旦那になる人だ。
私の敏感な箇所は、全部知っている。

もう、されるがままで……

「こんなレースのドレスなんか着ちゃってさ。
兄貴の前で。
こんな可愛い奥さんの肌、見せたくなかったんだけど。

やべーごめん、明日香。
今日は、半年前みたく、奥さんに優しくできる自信、ないや。」

ドレスだけは自分で脱ぐように言われる。

「結構値段張るんでしょ?
傷めたら困るし。」

下着だけになると、じっと見られてからすぐに外されて膨らみを包むように触られる。
この感触は半年ぶりで、待ち望んでいた温もりだ。

つい、甘い声が出てしまう。
私を見下ろす旦那の表情は満足気だ。

「俺の奥さんの鳴き声、聞けるのオレだけだからさ?
もっと聞かせて?」

膨らみの頂と、下の敏感な突起。
弱い部分を同時に指で素早く弄られると、半年ぶりの感触は刺激が強かったらしく、すぐに限界に達した。

「明日香……早すぎじゃない?
ねぇ、そんなに旦那のオレが恋しかったの?」

私は徹の言葉を否定も肯定もしなかった。

ただ、まだ身体は疼いている。
本当に欲しいものを、まだ貰っていない。

今までは付けて貰っていた。
しかし、それはもう要らない。
数週間後には夫婦になるのだ。

ベッドから降りようとする徹。
彼の腕を掴んで弱々しく引き留めた。
彼を欲情させるように、目を潤ませる。

「いいよ?とおる……
結婚するんだし、いらない……
そのままのが、いいな……」

私の頭を数回撫でてくれた徹。
付けないまま、一気に彼が入ってくる。

相当な大きさと熱さだ。

「あっ……んっ……あぁ!」

いつもなら結構激しく、ベッドのスプリングが
音を立てるくらい動いてくれるのだが、そんな余裕はないようだ。

「やべ、限界……
はぁ、あすか、あいしてる……っ!」

「んぁ、とおるっ……!
も、だめぇ……」

私が意識を手放す直前、奥に脈打つ熱いものを感じた。

「あ、やべ……
ごめん、明日香……」

「徹?
大丈夫。
そう言ったじゃん。

んも、我慢し過ぎは良くないよ?

結婚するんだしいいよ。

それに、早くもう一つの届け出したいしね?」

それに、嬉しかった。
徹と……久しぶりに愛し合えて。

「可愛い奥さん。

疲れたろ?
今日はもうしないから……
寝な?
おやすみ、明日香。」

徹……優しすぎるよ……
最中とのギャップが……

ニットワンピースを着て、ショーツだけ履くとそのまま眠りについた。

……コンコン。

外からのノックの音と、カーテンから漏れる明るい光で目が覚めた。

もう朝らしい。

「明日香?
ちょっと……いいか?」

康一郎お義兄さんの声。

出なきゃと思うのに、眠い。

「寝てな?
俺が出る。」

前開きパジャマに長ズボンの徹が、代わりに応対してくれた。

「……た。……は、……と。る?」

「……った。……ね。」

まぶたも重いし、何より腰が痛い。

だから、会話もほとんど聞こえなかった。

康一郎お義兄ちゃんを見送った徹が、私の横で話しかけてくれる。

「……明日香?
起きてる?
……今年はね、ハナたちがエージェントルームでクリスマスパーティーをやる計画をしてるみたい。

パーティーはね、明日の夜らしい。
パーティーの前にしたいこともあるし、お昼でここを出よう、って話になってる。名残惜しいけど。」

「わかったぁ……」


この家では最後となる朝ごはんを食べて、日本に帰る。
祖父母が空港まで車で送ってくれた。

俺たちに断ることなく、康介さんと亜子さんは志穂さんたち家族と一緒に先の便で日本に帰ったようだ。

「またいつでも来てね?
絶対よ?」

「徹、お前もだぞ。」

「いろいろとありがとうございました!」

飛行機の搭乗手続きを済ませて、ゲートに向かった。
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