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何で急に?と思ったが、徹に言われるがままに目を閉じる。

今までずっとあった薬指の指輪の感触がなくなって、少しもの寂しさを感じる。また別の金属の感触がして、指輪の感触に安心感を覚えた。

「明日香、お待たせ。いいよ、目開けて。」

徹の言葉に、ゆっくりと目を開く。
しっかりと、6本爪のダイヤモンドが嵌められた指輪が、薬指にキラリと輝いている。

あれ、この指輪……

「明日香、お前が最初にマレーシア行ったときに欲しがってたやつ。
それだろ?
オレがわざと、兄貴のエージェントルームの端末に情報を送ってやった。
後は、兄貴が志穂ちゃんへの指輪選びの下見に付き合え、と言って明日香を誘って、その指輪を試させればいい。

いろいろ試させたら、後は、俺が帰ってくる2週間前に取り置きを頼んで、俺が時間を作って急いで取りに行けばいい。

兄貴と志穂ちゃんに、協力を頼んでおいて正解だったな。」

「じゃあ、徹が空港に着いてから、温泉施設を指差して少し汗を流していくか、って言ったのって。
私にゆっくりお風呂に浸かってもらうだけじゃなくて、取り置いた指輪を取りに行く時間を作りたかったから?」

「ん、正解。」

よくできました、と言わんばかりに軽く頭をポン、と叩いてくれた徹。

「徹、大好き!」

どちらからともなくキスを交わす。

「徹、やることいっぱいあるのに、あんまりすると自分で自分の首絞めるよ?」

「だな、可愛い奥さんを見るのは夜までとっておくか。」

プライベートガーデンを出ると、やけに顔を真っ赤にしている康一郎お義兄ちゃんと志穂ちゃん。

……まさか、さっきの見られてた!?

「お前らは行けよ。
父さんから連絡があったぞ。
もう記入終わったって。」

「役所、行かれるんですよね?
カメラ係として行きましょうか?
それか暇そうにしてる妹の南穂を行かせましょうか?
あ、それとも、お二人の方が、ラブラブな時間を邪魔しなくて済みますかね?」

「お気遣いありがとうな、志穂ちゃん。
オレと明日香の2人で行くから、志穂ちゃんたちもゆっくりしていていいよ。」

「戻る前に連絡くださいねー!
料理の味もお二人に堪能してほしいそうです。

あと、私の両親も、あのマレーシアではあまりゆっくり歓談できなかったから、明日香さんたちと話したいそうです。
それが終わったら、私と康一郎以外の柏木一家は帰ります。」

「分かったよ、ありがとうー!」

康一郎お義兄さんと志穂ちゃんに手を振って、ちょうど来たエレベーターに乗る。

ロビーに戻ると、ドアの前に康介さんと、亜子さん、いや、お母さんがいた。
受け取った婚姻届の証人欄には、亜子と康介の字が書きつけられていた。

「行ってらっしゃい。
気をつけるのよ?」

「行ってきます、お母さん!」

私がそう言うと、お母さんは一瞬だけ、私を抱きしめた。

「嬉しいわ。そう呼んでくれて。
さぁ、行きなさい。
苗字は変わっても、ずっと私の、南家の娘として見守らせて?」

「わかっています。お母さん。
では、行ってきます!」

徹も、私の母に会釈した。

役所に着いてからは、届けを窓口に出して、数分で終わった。
何だかあっけなかったが、ご結婚、おめでとうございますと窓口の人に言われて初めて、苗字が「伊達」に変わったことを実感した。

徹の運転でホテルに戻ると、待っていた康介さんに、レストランに案内された。

志穂ちゃんと康一郎お義兄ちゃんが顔を真っ赤にしている。

志穂さんの左手の薬指には、キラリと光るものが。

「どさくさに紛れてプロポーズしやがったな、兄貴のやつ。」

「まぁまぁ、めでたいことは立て続いたほうがいいじゃない?」

柊家の人たちとも昼食会で交流を深めた。

その後は、再びお母さんによって、私と志穂ちゃんだけ部屋に案内される。

部屋を開けると、白いドレスが所狭しと並んでいた。

これ、全部ウェディングドレスなの?


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