ボーダー
「遠藤もメイの様子がおかしいと思ったのは、指輪の有無に気付いたときからだそうだ。
……手元に目がいくのは、バーテンダーの職業病みたいなものだからな。」

え!?
バ、バーテンダー!?

「知らなかったの?
……オレも遠藤も、深夜になるとFBI本部の地下フードコート横の空間にある酒と話術でカウンセリングを行う店、Bar『MoonLovers』のバーテンダーになるの。
……要するに、副業だな。」

ぜ、全然知らなかったんですけど?

せっかくなので、そんなバーテンダーさんにノンアルコールカクテルを出してもらった。
いつも持ち歩いてるの?シェーカー……

そして、村西さんが酒と話術でカウンセリングを行う、という言葉の意味を、たった今からと翌日に、身を持って知ることになる。

大分落ち着いたのか、メイはゆっくりと話し始めた。

日本の法廷に立ってほしい、本来の法廷に立つはずだった人から資料は貰っている、という依頼を受けて日本に向かった。
日本に向かったのは、あわよくばオレに会いたいという気持ちもあったようだ。

しかし、どこからその情報を知ったのか、その男がは港で待ち構えていたのだ。
空港近くのホテルで両手両足にアザを作られるほど、暴行されたという。

法廷も最悪だったようだ。

メイは、"証言をしないと、精神疾患のことを法廷中にバラす"と言って、司法取引をして勝訴した。

閉廷後に、証人の家族に怒鳴り散らされて左右の頬を平手打ちされたそうだ。
見かねた裁判官が牽制してくれなかったら、平手打ちは何発喰らったかわからないという。

『あんな傷を抉るような、人のプライバシーでさえも勝訴への道具とするような勝ち方をして嬉しいか?
お前は……最低な検事だ。
人間的にもな。
そんな奴が、法廷の場に検事として存在している事自体に虫酸が走る。』

その言葉で、検事を辞めることも頭をよぎったという。

最後は、大粒の涙を流しながらオレへの謝罪をしていた。

「蓮太郎……ごめん……
あなたには、日本で平和に暮らしていてほしかったから、言えなかったのよ……」

言い終わる前に声を上げて泣き出したメイ。
そんな彼女がかなり愛おしく思えて仕方がなかった。
無意識のうちに、メイの身体を、力加減を調整しながらぎゅっと抱きしめる。

少し細くなった、と感じるのは、薬の副作用で吐き気があるせいなのだろうか。

下着をつけてないため、薄い布越しに、メイの膨らみのてっぺんの感触を感じた。

オレの下半身が更に反応したが、もう知るか。
欲情したらしたで、自分で処理すればいい。

多分、メイなりの気遣いだったんだよな。
……言わないでいること。
オレに心配させまいとして……

「だから朝、言っただろ?
結局のところ、メイが一番信頼しているのはオレでも遠藤でもないんだ。
レン、お前なんだよ。」

「可愛いガールフレンドを信用してないとか言ったオレがバカだった。
メイ……ごめんな?」

頭を優しく撫でてやりながら、彼女の気が済むまで泣かせてやる。
しばらくして泣き止んだメイは、オレの腕から離れた。

「なんか……もう12時なのね。
そろそろお昼の時間だし、泣いたせいかお腹が空いてきたわ。
今回は、私が作るわね。

台所に立って昼食の食材を探し始めた。
< 141 / 360 >

この作品をシェア

pagetop