ボーダー
朝食の後、蓮太郎と村西さんから、それぞれプレゼントをもらった。

「誕生日おめでとう、メイ。
17歳のスタートは最悪だったけどさ。
いい1年になるように、いろいろ協力したいって思ってる。
一緒に頑張ろう。」

ビジューをライン上にしてバーのように見せた装飾がされているキーケースと、しずくをモチーフに、ムーンストーンの石が垂れ下がるデザインの10金ピアスを蓮太郎から貰った。

キーケース、助かるわ。
鍵をまとめておければ、鞄の中でなくす心配もない。
しずくモチーフの、石が垂れ下がるタイプのピアスは、特別な時につけようかしら。

村西さんからは、ピアスなどのアクセサリーを持ち運べるアクセサリーケースをプレゼントされた。
ファスナーで開閉出来るようになっている。
しかも、ファスナーポケットや鏡までついていて、鏡が近くになくてもアクセサリーをつけられる。

さっそく、後で、蓮太郎から貰ったピアスをしまってみることにしよう。

「ありがとう!
とっても嬉しい!
素敵なものを素敵な人からプレゼントされて、最悪な誕生日が、最高の誕生日になったわ!」

ぎゅ、と蓮太郎に抱きついて感謝を示す。
朝だし出かけるわけではないので、ノーブラだが仕方がない。

「はいはい、オレの前でいちゃつくな?」

これくらいがイチャイチャなら、キス、とか、その先はどうなんだろう。

また来る、と言って村西さんは1度FBI本部に向かった。
特訓を終えて一息ついたころ、蓮太郎が申し訳無さそうにピンキーリングを差し出した。

慌てて彼の手から奪う。
この内側のイニシャルは、彼にだけは見られたくなかった。
蓮太郎がずっと持っていたのね、このピンキーリング。
これをなくしたおかげで、大変な目に遭ったのだ。

「メイが乗り気だったとは思えない。
もしかして、少しでもソイツに抱かれたい気持ちはあったわけ?
そこはどうなの?メイ。」

そんなことはない。
私が身体を重ねたいと思うのは、蓮太郎ただ1人だ。
それ以外はお呼びじゃない。

今その言葉を口に出してしまえば楽なのに、言えるわけがなかった。
そんな勇気はまだない。

「……メイ。
その脚のアザ、去年からずっとあったよな?
そのとき、何があった?」

「関係ない!
蓮太郎、急に何?
矢継ぎ早に質問しないでくれるかしら?」

私自身も、話したい気持ちはあるが、思いつくままに話しては、脈絡のない話になって伝わらないかもしれない。

「そう言わないで、話してほしい。
今回の事件とも……何か関係があるかもしれないだろう?

いつまでも黙って……
オレのこと、そんなに信用してないのかよ?
まだ、心の整理、つかない感じ?
そろそろ知りたいんだ。
メイの身に本当に、何があったのか。」

そのことは、蓮太郎の前では話さないつもりでいた。

ボーイフレンドと呼びたくなるくらいには、彼のことは好きだ。
何なら、私からデーティング期間を終わらせてボーイフレンド呼びをしてもいいくらいだ。

そんな人に、自らが乱暴されたなど、とても言えない。

副業がバーテンダーだって今初めて聞いた村西さんのノンアルコールカクテルを飲むと、言葉にならなかった脳内の思考が自然に整理されていくのが分かった。

─去年の10月のこと。

デーティングの相手と会う約束を取り付けていた。
ドタキャンするとブチ切れるから、仕方なく準備をしていると携帯が着信を告げた。

日本の検事局長からで、担当検事が急に法廷に来られなくなったから、至急代理で来てほしいとのこと。

アイツと会うよりはマシだと思って承諾する。調書がFAXで送られてきた。
いつもの法廷に立つときに着るワンピースを着て行き、アイツにバレないように空港に向かった。
つけられてもいないはず。
それなのに。

……空港まで追いかけてきたのだ。

「おい!俺との約束はどうしたんだよ!」

……浅川将輝《あさかわまさき》。
男の風上にも置けない最低な奴だ。

「急遽、法廷に立たなきゃいけなくなったの。
…日本の検事局長からの依頼でね。
だからちょっと…日本に行ってくるわ。」

そう告げて足早に通り過ぎようとした。
しかし、強い力で腕を掴まれたまま、空港近くのホテルに連れ込まれた。
どうあがいても男女差は覆らない。
一方的に脚を殴られたり蹴られたりした。

オレと仕事のどっちが大事なんだよ、という去り際の言葉。

私と蓮太郎みたいに、遠距離恋愛で会えないカップルが言うセリフだ。それは。
第一に、好きじゃない男に言われるセリフじゃない。

< 143 / 360 >

この作品をシェア

pagetop