ボーダー
入り口で指紋認証と静脈認証をすり抜け、FBI本部に入った。

「お。
よく来たな。
メイ、蓮太郎。
……皆、もう会議室にいるぞ。

それにしてもお前ら、何も言われないと恋人同士に見えるぞ。雰囲気がな。

案内する。こっちだ。」

村西さんは、そう言ってオレたちを会議室に案内してくれた。恋人同士に見える、の一言は取ってつけたようにも見えて蛇足だったが。

……FBI本部のこの部屋は、完全防音になっていて、パソコンが一台、置いてある。

エージェントルームの個室が、一流会社の会議室級に広くなったイメージだ。

オレとメイと村西さんは、中央の空いている席に座った。

「大体のことは……翔さんから聞いてます。
レンも……メイさんも……ツラかったでしょうね。」

同僚の皆が、オレとメイに口々に言葉をかける。

「平気……?
……話せる……?
メイ……」

そっと、メイの肩を抱く。

「大丈夫よ。
ありがと、蓮太郎。」


メイはそう言うと、一呼吸おいて、全ての事情を話し始めた。

途中……何度も涙を堪えていたが、最後のほうには泣いていた。

そんな彼女の手を握ってやりながら、オレも静かに怒りを堪え、話を聞いていた。

話を聞いた皆も、開いた口が塞がらない様子だった。
とりわけ女性は、メイにつられて泣いているものもいた。男性は、強く唇を噛む者もいた。

オレは、話している間に堪えきれず涙を流すメイの手を、話している間中ずっと強く握っていた。

携帯を見せろなどの束縛、家に監視カメラと盗聴器をつけるなどの住居侵入、実際の強姦。

完全に犯罪者だ。
ただ、傍から見れば親子か歳の離れた兄妹に見えなくもない村西さんを浮気相手と勘違いしたのは笑えた。

少し頭を使って考えれば分かるだろうに、視野が狭すぎだ。

「お互いに辛いな。
被害に遭った側はもちろん、所詮他人のオレたち、特に男には想像できないほどに辛くて、その記憶を一生引きずって生きていかなきゃならない。

だがな、辛いのは被害に遭ったことを聞いた方もなんだ。
いろいろと後悔だったり、自責の念に駆られるからな。」

社員の誰かが口にしてくれた言葉に、オレは大きく頷いた。
村西さんから電話を受けて、ここに向かう飛行機の中で、何度も自問自答した。

オレはあのとき、幼なじみであるハナへ向いている気持ちにケジメをつけるために、日本に帰った。

帰らないで、ずっとメイと一緒の国にいれば。
メイがこんな目に遭うことはなかったのではないだろうか?

こんなオレは、メイに自分の気持ちを正直に伝える権利などないのではないだろうか。

そんなことも思った。
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