ボーダー
〈メイside〉

目を半分開いて、枕元にある時計を見ると、7時45分だった。
……ふと横を見てみると、布団で寝ていたはずの蓮太郎の姿はなかった。

え……?

どっか行っちゃった?

まさか……帰っちゃったとか、ないよね?
……嫌だよ……勝手にいなくなったりしちゃ!

寂しいもん!

まだ、好きな人にきちんと抱かれていない。
好きでもない男に無理やり抱かれた記憶を、上書きして、幸せな思い出にしてほしい。
それが済むまで、帰ってほしくはないのだ。

それに……ママがいなくなっちゃったときのことを……嫌でも思い出してしまう。

だけど……多分この家の中にいる……よね?
……部屋の外に出てみると、トントンとリズミカルな包丁の音が聞こえた。
その音の出どころを探すように、階段を駆け下りる。

「蓮太郎っ!」

蓮太郎は、冷蔵庫とにらめっこしていた。

しかも……ちゃっかり自分だけ着替えている。
すぐにでも出掛けられそうな格好だ。
白Tシャツにデニムベスト。
下はカーキ色のズボンに、黒いベルトをしている。
しかも襟の開きが広いから、鎖骨が見えてかなりセクシーだ。
何ならこのまま襲われてもいいくらい。

「お。
おはよう、メイ。」

当の本人は、私の心中を知ってか知らずか、かなり軽いノリで「おはよ」って言ってくる。

あのねぇ……
私がどれだけ不安になったか……
寂しくなったか……
蓮太郎……知らないでしょ!?

「『おはよう』じゃないでしょ!?
もう!勝手に部屋からいなくなって、どこに行ってたの?」

「何?
……オレがどっか行っちゃう!とか思ったの?

……可愛い。
オレは、脱衣場で着替えてただけだよ?
メイ、今の格好も可愛いんだけど、さすがに朝から目のやり場に困るから、着替えてくれば?」

かっ……かわっ……!?
今、「可愛い」と言われたのは聞き間違いや幻聴ではない。

家の中だし、外に出るときに着替えやすいのでキャミソールとショートパンツにしたのだが、蓮太郎はお気に召さなかったようだ。

この格好は、蓮太郎と晴れて恋人同士になれた際に、キス以上の行為への誘導として着ることにしよう。

「うん。じゃあ着替えてくる。
べ……別にさっきのは、蓮太郎を心配して言ったんじゃないからね?」

朝ご飯を作ってくれている蓮太郎に着替えてくる旨を告げると、早足で自分の部屋に戻った。
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