ボーダー
〈ハナside〉

私とミツは、ここ数日、エージェントルームに泊まり込んで、あることについて調べていた。

お互い実家、だと家デートでもキス以上のことは期待できない。
そろそろ、したい気持ちもある。

だから、ここに泊まり込むことで、空き部屋を借りて休憩がてら、そういうことにチャレンジしてみるためでもあるんだけど。
と思っていたところに、部屋のドアがノックされる。
伊達さんの声がした。

「…ハナ、ミツ。
まさかお楽しみ中……じゃないよな?
程々にしろよ?
学生の本分は勉強だからな。
……お、そうそう。レンから電話だぞ。」

レンから?

……何か……あったのかな?

「あ、明日香さん、体調は大丈夫なんですか?
もうすぐ産休ですよね。
ちゃんと労ってあげてくださいね?」

大人のくせに、少しムッとした顔をしながら扉を閉めた伊達さん。

「ハナ、気にするな。男にもいろいろあるんだよ。
特に彼みたいな、妻を溺愛して、結果的にデキ婚になったような人はな。」

気にはしていないが、そのいろいろとはなんだろう。

伊達さんは相変わらず、自分と同じ苗字になった奥さんである明日香さんを溺愛している。

自分が仕事で立て込んでいるときは、部下の女性に、明日香さんの様子を少し見てきてもらっているという。

奥さんの妊娠は挙式直前に発覚し、なんとか負担の掛からないスケジュールに変更して挙式を行った。
それがたたったのか、悪阻の症状はひどく、入院一歩手前くらいにまでなったという。

今は経過も順調で、少しずつ悪阻の頻度も減っているという。

妊娠という大仕事を独りで受け持つ明日香さんが大変なことは重々承知だが、何せ有り余る欲は1人で処理するしかない。

そんな中、イチャイチャしていて仲良さげな私たちを見ると自分たちも今頃は、という気持ちになるのだろう、というのがミツの見立てだ。

なるほど、そういうことか。
それが積み重なって、よくワイドショーで話題になる、奥さんの妊娠中に浮気だの不倫だのということに発展するのか。

いつかは、私も、今の明日香さんみたいになりたい。
でも、そうなったとして、ミツはどうなるんだろ。
少し気がかりだ。

おっと、そういえばレンから電話が入っていたと言われていたんだった。
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