ボーダー
伊達さんが、レンからの電話だって言って、受話器をハナに渡していた。
お小言を言う暇があるなら、とっとと渡してほしかった。

電話口で、レンを待たせているのだから。

いくら奥さんが妊娠中で夜の相手をしてもらえないとはいえ、その苛立ちを関係のないオレたちにぶつけるのはやめてほしかった。
大人として、ちょっとナンセンスだと思う。

妊娠したらどうなるか、させたらどうなるか分かっていたのは本人のはずだ。
防ぐ手段はいくつかあるのにそれを強行したのだから、自己責任だろう。

ハナには気にするな、と言った。
人によっては横暴な理論に聞こえるので、オレが今考えたことはハナには伝えていない。

少しの間ハナがレンと話した後、今度はオレに受話器を渡した。
レンはオレとも話したいようだ。

「レン?元気か?」

ようやくレンはハナがレイプされたときのオレの気持ちが分かったようだ。
今、好きな女を自分のものにしたい欲と闘っているらしい。

「お前は、優しすぎなんだよ。
オレを見習え。
押して押して押しまくって、相手をその気にさせてから甘い言葉で誘惑して、ベッドに直行すればいいんだって。」

レンによるとその子、ハナに似て素直じゃないらしいじゃん?
今朝はやけに素直だったみたいだけど。

「いいんじゃない?
ってかお前……オレには事後報告でハナとしたくせに何を今更迷ってんだよ。」

「大事に……してやりたいじゃん?
あんなことがあって少なからず怖いかもだし。」

そりゃ……気持ちはわかる。
今でこそ、夜も更けた時間、もちろん翌日の学校に支障がないときに限っているのだが。
普通に欲は有り余っているから、ハナを巧みに誘導して抱いている。

何回もしてるから本人も慣れてきたのか、最初ほどの恐怖心はもうないようだ。

だから、最初だけこれ以上ないくらい優しくしてやれば、その子の傷も少なからず癒えるんじゃないか?

そう思ったとき、FAXが1枚の写真を吐き出した。

……コイツが……レンの大事な女を?
というか、隣に写っているのがその子か。

気が強そうだ。
もし、レンと一緒になったら、いい感じでレンを尻に敷きそうだ。

男の方は、いかにもナルシストって感じだな。
髪は茶髪で、制服は着崩して……耳にはピアスをしている。

「コイツのことに関しては、オレたちがきっちり調べておくから、落ち着いたら何があったのか全て話せよ?
今レンがかなり落ち込んでいること、オレとハナにはバレバレなんだからな?」

それだけを言うと、レンの返事を聞いてから再びハナに代わった。
一言だけお礼を言いたいようだ。

ハナに本当に一言だけお礼を言って、電話は切られた。
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