ボーダー
本音
BAR「MoonLovers」
電話を切った後、何となく会議室に戻りたくなくて、空き個室でぼんやりと考え事をした後、廊下をトボトボと歩いていた。
ミツはああ言ってくれたけれど、オレにはメイを抱く資格なんてない。
だってオレは……メイのことを全て知っていると……思い込んでいたのだから。
……デーティングの相手がオレ以外にもいて、ソイツにあんなことをされているなんて、思いもしなかった。
あんな暴行を受けているってことを全く知らないまま、メイに明るく電話したりしていた。
オレは……なんてバカなんだよ。
あの空港で会ったとき……何でオレは話を聞いてやることしかできなかった?
何もない、という言葉を信じて、
ただ……メイの華奢な身体を抱きしめてやることしかできなかったんだよ。
あの時、何があったか無理やりにでも聞き出せていたら。
少なくとも、メイはあんな目には遭わずに済んだ。
自分が不甲斐ない。
ダンッ!!
イライラの捌け口がわからなくて、柱に思いきり……拳をぶつけた。
「くそっ……!
ダメだよな、オレ……」
好きで大好きで、守ると決めた女1人……守れないなんてさ。
ハナを好きだったときから成長していない、自分が情けない。
……そのとき、ふいに靴音が響いた。
「何がダメなんだ?」
その声の主は…………遠藤 周作さん。
精神科医とカウンセラーの資格を持っている。
副業を持っているようだが、ミステリアスな人だ。
あまり自分のことをおいそれと人に話さない。
……!?
いつから……いたの?
……オレだって、ハナを抱いたから……さ。
人のオーラくらいは、少しだけだけどわかるようになってるんだよ?
不思議なチカラを持つ男女が身体を重ねた時、お互いの能力が移ることがあるらしい。
それは未来永劫、能力が移ったままなのか、一時的に出現するのかはまだ研究がなされていない。
だけど……遠藤さんからは、全くオーラを感じなかった。
……何でだ?
彼には、オレが隠している何もかもがバレている気がしている。
ハナを抱いたことから……。
今、メイを好きなことも。
抱きたいって思っていることも……全て。
もちろん、つい先程、散々自分を情けなく思って、自分に八つ当たりしていたことも。
「オレは、彼女を守ってやれなかった。
今のオレには……メイのいる会議室に戻る資格なんてありません。」
「そうか。
それなら、来るか?
オレらの2番目の仕事場。」
「え?は……はい……。
ぜひ、お願いします……」
遠藤さんの後をてくてくと歩いてついて行く。
ふと、オレの前を歩いていた遠藤さんが、歩調を合わせるように、歩く速度を緩めた。
いつもの、得意げで自信過剰な遠藤さんと同一人物だろうか、という少し沈んだ声色で、話し出す。
「オレは、珠美 由紀の母親の恩師でさ。
彼女と一緒に、浅川 将輝のカウンセリングをしていたんだ。
彼女から、自分の娘が浅川と同い年だというのは聞いていた。
だから、会わせて助手に近いサポートをしてもらおうと思った。
サポートといっても、カウンセリングの合間の雑談相手になってもらう程度のことでよかったからな。
由紀ちゃん本人もそれを望んだから、そうしてもらっていた。
大人たちに囲まれるより、少しは同年代の奴がいるほうがいいからな。
それに、娘も心理学という学問への強い興味があった。
アメリカへの大学進学も視野に入れているみたいだから、いいチャンスだと思った。
こんな結果になって、お前の幼なじみの親友だったか?
その由紀ちゃん。
彼女も自分自身への罪悪感を感じているだろうから、その子まで傷つけてしまった。
蓮太郎、お前の幼なじみだという子も、こんな話を聞けば心を痛めるだろう。
俺の分まで謝っておいてくれ。
悪かったな。
俺や、由紀ちゃんの母親がもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかった。
まだまだだな、俺も、珠美さんも。」
オレは、なんと答えれば、遠藤さんに自分の思いが伝わるのか分からなかった。
彼の背中に無言でついていった。
やがて、遠藤さんの足はエレベーターの前で止まり、ちょうど来たかごに乗って、地下のフロアに向かった。
ミツはああ言ってくれたけれど、オレにはメイを抱く資格なんてない。
だってオレは……メイのことを全て知っていると……思い込んでいたのだから。
……デーティングの相手がオレ以外にもいて、ソイツにあんなことをされているなんて、思いもしなかった。
あんな暴行を受けているってことを全く知らないまま、メイに明るく電話したりしていた。
オレは……なんてバカなんだよ。
あの空港で会ったとき……何でオレは話を聞いてやることしかできなかった?
何もない、という言葉を信じて、
ただ……メイの華奢な身体を抱きしめてやることしかできなかったんだよ。
あの時、何があったか無理やりにでも聞き出せていたら。
少なくとも、メイはあんな目には遭わずに済んだ。
自分が不甲斐ない。
ダンッ!!
イライラの捌け口がわからなくて、柱に思いきり……拳をぶつけた。
「くそっ……!
ダメだよな、オレ……」
好きで大好きで、守ると決めた女1人……守れないなんてさ。
ハナを好きだったときから成長していない、自分が情けない。
……そのとき、ふいに靴音が響いた。
「何がダメなんだ?」
その声の主は…………遠藤 周作さん。
精神科医とカウンセラーの資格を持っている。
副業を持っているようだが、ミステリアスな人だ。
あまり自分のことをおいそれと人に話さない。
……!?
いつから……いたの?
……オレだって、ハナを抱いたから……さ。
人のオーラくらいは、少しだけだけどわかるようになってるんだよ?
不思議なチカラを持つ男女が身体を重ねた時、お互いの能力が移ることがあるらしい。
それは未来永劫、能力が移ったままなのか、一時的に出現するのかはまだ研究がなされていない。
だけど……遠藤さんからは、全くオーラを感じなかった。
……何でだ?
彼には、オレが隠している何もかもがバレている気がしている。
ハナを抱いたことから……。
今、メイを好きなことも。
抱きたいって思っていることも……全て。
もちろん、つい先程、散々自分を情けなく思って、自分に八つ当たりしていたことも。
「オレは、彼女を守ってやれなかった。
今のオレには……メイのいる会議室に戻る資格なんてありません。」
「そうか。
それなら、来るか?
オレらの2番目の仕事場。」
「え?は……はい……。
ぜひ、お願いします……」
遠藤さんの後をてくてくと歩いてついて行く。
ふと、オレの前を歩いていた遠藤さんが、歩調を合わせるように、歩く速度を緩めた。
いつもの、得意げで自信過剰な遠藤さんと同一人物だろうか、という少し沈んだ声色で、話し出す。
「オレは、珠美 由紀の母親の恩師でさ。
彼女と一緒に、浅川 将輝のカウンセリングをしていたんだ。
彼女から、自分の娘が浅川と同い年だというのは聞いていた。
だから、会わせて助手に近いサポートをしてもらおうと思った。
サポートといっても、カウンセリングの合間の雑談相手になってもらう程度のことでよかったからな。
由紀ちゃん本人もそれを望んだから、そうしてもらっていた。
大人たちに囲まれるより、少しは同年代の奴がいるほうがいいからな。
それに、娘も心理学という学問への強い興味があった。
アメリカへの大学進学も視野に入れているみたいだから、いいチャンスだと思った。
こんな結果になって、お前の幼なじみの親友だったか?
その由紀ちゃん。
彼女も自分自身への罪悪感を感じているだろうから、その子まで傷つけてしまった。
蓮太郎、お前の幼なじみだという子も、こんな話を聞けば心を痛めるだろう。
俺の分まで謝っておいてくれ。
悪かったな。
俺や、由紀ちゃんの母親がもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかった。
まだまだだな、俺も、珠美さんも。」
オレは、なんと答えれば、遠藤さんに自分の思いが伝わるのか分からなかった。
彼の背中に無言でついていった。
やがて、遠藤さんの足はエレベーターの前で止まり、ちょうど来たかごに乗って、地下のフロアに向かった。