ボーダー
話が一段落したとき、カツ、と靴の踵がヒールを叩く音がした。その音はこの部屋の前で止まったようだ。
「ごめんね?話は聞かせてもらったわ。
あなたね?冥ちゃん。
貴方にも、謝らなきゃと思って探してたところなの。
改めて、初めましてね。
私は、珠美 由理《たまみ ゆり》。
今頃、私の娘の由紀は、地下のバーカウンターにいる、貴方の未来の彼氏、いつか旦那さんになるのかしらね?
その彼のところに行って話を聞いている最中かしら。」
見覚えのあるパンツスーツと、ラベンダーのブラウス。
さっき、本部にて浅川 将輝の家庭環境やらを報告していた人だ。
名刺を差し出してきたので、受け取る。
自分の名刺も差し出すと、何だか社会人になった気分だ。
「本当に、ごめんなさいね。
冥ちゃん。
遠藤さんと、私が至らなかったせいで、貴女に一生消えない心の傷を残してしまった。
悔やんでも悔やみきれないわ。
私の娘も、貴女と、貴方の未来の彼氏さんと年齢同じなの。
もちろん、浅川くんともね。
だから、雑談相手くらいになれば、と思ってこっちに一緒に来ることもあったわ。
まぁ、本人はアメリカで進学を希望してるからそれの下見とか協力体制を構築する目的もあったのだけれど。」
グラスの中の液体を飲み干して、申し訳無さそにしている由理さんに、言った。
「由理さん、でしたっけ?
由理さんも、貴女の娘さんも。
娘さんはちょっとした雑用とかの係だったのかもしれないですけど。
それでも少なからず、浅川将輝のカウンセリングを一生懸命やっていた。
それはこちらにもその想いが伝わってきます。胸を張っていいことだと思うんです。
自分が悪かった、至らなかった、って思うのは違うと思います。
カウンセリングを受けても何も得ようとしなかった、浅川 将輝の責任ですから。
私は確かに、今回彼に性暴力を受けましたけどだからといって、貴女たちを責める権利はありません。」
私がそう言うと、由理さんは絵画の中の女性みたいな上品な笑顔で微笑んだ。
「少なからず、私や周囲の人を責める言葉を紡ぎたくなるはずなのに、それをしなかった。
貴女は強い女性ね。
そんな貴女なら、ちゃんと、未来の旦那さんが自分の義理の姉と仲直りする姿を見届けられるはずよ。
冥ちゃんの方から何かアクションを起こさなくてもね。」
一息つくと、空になったグラスを置いて、由理さんは話し出した。
「ねぇ、冥ちゃん?
自分に似ている人を好きになるのって、とっても理に適っている、って思わない?
精神的に強いのはあくまでそう見えるだけで、本当は素直になれずに、本当の気持ちを言えないでいる。
方や片想いの男の子に対して。
方や、自分の大事な家族である姉に対して。
向いてるベクトルは違うけど、本質的には一緒よ。
似た者同士、ということは分かるわよね?
どちらかがポジティブな方向に、一歩踏み出せばお互いに変われるはず。
いいえ、そうしなきゃダメ。
踏み出してみてダメなら、またそこから軌道修正していけばいいのよ?」
そう言って、由理さんは私のグラスの横に名刺を置いた。
「いつでもいいわ。
何か力になれそうなことがあったら、早朝でも深夜の時間帯だとしても、惜しまず協力するから、連絡をくれるかしら。
宜しくね?」
由理さんは、私にそう言ってから、席を立って村西さんに何かを告げた。
私が顔をキョトンとさせる中、彼女は部屋のドアノブを開けてヒールの音を響かせながら出ていった。
「ごめんね?話は聞かせてもらったわ。
あなたね?冥ちゃん。
貴方にも、謝らなきゃと思って探してたところなの。
改めて、初めましてね。
私は、珠美 由理《たまみ ゆり》。
今頃、私の娘の由紀は、地下のバーカウンターにいる、貴方の未来の彼氏、いつか旦那さんになるのかしらね?
その彼のところに行って話を聞いている最中かしら。」
見覚えのあるパンツスーツと、ラベンダーのブラウス。
さっき、本部にて浅川 将輝の家庭環境やらを報告していた人だ。
名刺を差し出してきたので、受け取る。
自分の名刺も差し出すと、何だか社会人になった気分だ。
「本当に、ごめんなさいね。
冥ちゃん。
遠藤さんと、私が至らなかったせいで、貴女に一生消えない心の傷を残してしまった。
悔やんでも悔やみきれないわ。
私の娘も、貴女と、貴方の未来の彼氏さんと年齢同じなの。
もちろん、浅川くんともね。
だから、雑談相手くらいになれば、と思ってこっちに一緒に来ることもあったわ。
まぁ、本人はアメリカで進学を希望してるからそれの下見とか協力体制を構築する目的もあったのだけれど。」
グラスの中の液体を飲み干して、申し訳無さそにしている由理さんに、言った。
「由理さん、でしたっけ?
由理さんも、貴女の娘さんも。
娘さんはちょっとした雑用とかの係だったのかもしれないですけど。
それでも少なからず、浅川将輝のカウンセリングを一生懸命やっていた。
それはこちらにもその想いが伝わってきます。胸を張っていいことだと思うんです。
自分が悪かった、至らなかった、って思うのは違うと思います。
カウンセリングを受けても何も得ようとしなかった、浅川 将輝の責任ですから。
私は確かに、今回彼に性暴力を受けましたけどだからといって、貴女たちを責める権利はありません。」
私がそう言うと、由理さんは絵画の中の女性みたいな上品な笑顔で微笑んだ。
「少なからず、私や周囲の人を責める言葉を紡ぎたくなるはずなのに、それをしなかった。
貴女は強い女性ね。
そんな貴女なら、ちゃんと、未来の旦那さんが自分の義理の姉と仲直りする姿を見届けられるはずよ。
冥ちゃんの方から何かアクションを起こさなくてもね。」
一息つくと、空になったグラスを置いて、由理さんは話し出した。
「ねぇ、冥ちゃん?
自分に似ている人を好きになるのって、とっても理に適っている、って思わない?
精神的に強いのはあくまでそう見えるだけで、本当は素直になれずに、本当の気持ちを言えないでいる。
方や片想いの男の子に対して。
方や、自分の大事な家族である姉に対して。
向いてるベクトルは違うけど、本質的には一緒よ。
似た者同士、ということは分かるわよね?
どちらかがポジティブな方向に、一歩踏み出せばお互いに変われるはず。
いいえ、そうしなきゃダメ。
踏み出してみてダメなら、またそこから軌道修正していけばいいのよ?」
そう言って、由理さんは私のグラスの横に名刺を置いた。
「いつでもいいわ。
何か力になれそうなことがあったら、早朝でも深夜の時間帯だとしても、惜しまず協力するから、連絡をくれるかしら。
宜しくね?」
由理さんは、私にそう言ってから、席を立って村西さんに何かを告げた。
私が顔をキョトンとさせる中、彼女は部屋のドアノブを開けてヒールの音を響かせながら出ていった。