ボーダー
〈レンside〉

出来るなら、この言葉は直接、姉さんから聞きたかった。

「メイは、薄々勘づいていたようだ。

ねつ造の件で……レン。
お前にわだかまりがあるということを。
今朝、日本の大阪の検事局の事件が報道されたときにピンときたようだぞ。

それをあえて口にはしなかった。
メイは、自分の不用意な発言で傷付く自分の想い人の姿を見たくなかった、そんなところだろう。」

「メイ……」

オレは、好きな人の名前を呟くしか出来なかった。
オレの態度が、メイの心を更に重くしていたようだ。

メイの力になりたいと思っていたのに、自分が負担になってた、なんてな。

「いいのか?レン。
帰国パーティーでも、お姉さんとは最低限の挨拶以外、全く話をしなかったんだろ?
仮にも、自分の想い人が尊敬しているその人と気まずい状態でいいのか?
結婚の挨拶するときも大変だぞ?」

おいおい、仮にもまだ未成年の人間に結婚の話をするのはどうかと思う。

「なるほど。
お姉さんに真相を話してもらえなかったことが引っかかってるのね、蓮太郎くんは。

人の気持ちなんて容易、なんて言っちゃ心理学を嗜む者として失格ね。
でも、働きかけ次第でいくらでも変わるわ。

その当時は話したくなかったかもしれない。
だからといって、今も話したくないとは、限らないんじゃないかな?

一度、蓮太郎くん自身が少しでもお姉さんに会ってみたい気持ちがあるなら、会ってみてもいいんじゃない?」

そこで言葉を意味深に切った由紀ちゃん。

「人は、不安とか心配とか、ネガティブなことは、あまり多く心に抱えられないの。
だから、蓮太郎くんが、そのお姉さんに会うのは、片想いのメイちゃんをベッドの上で甘やかしてからになるのかな?

頑張れ!」

何てこと言うんだ、由紀ちゃんは……!
顔が真っ赤になったのは、カクテルのせいだけでは、きっとない。
そもそも、このカクテルにアルコールは一滴も含まれていないのだが。

「ホントのことだろ?蓮太郎。
素直に腹割って正直に、話せば伝わるよ。

村西の奴が、そのメイちゃんに余計なことを吹き込んでなきゃ、だけどな。」

遠藤さんと、由紀ちゃん。
2人の話を聞いて、ふと昔を思い出す。
オレがアメリカに渡って数カ月後、ホームシックに近い状態になった。
オレがカガク捜査官になってどうしたいんだっけ?と目的を見失った時期だった。

そのとき、巴姉さんが事件の被告人になったって聞いて腰を抜かした。

オレは、絶対に姉さんは殺人なんかしないって思っていたのに、脅迫されたとはいえ嘘の自供をしていたことになる。

昔は優しかった姉さんが一気に変わってしまったのが信じられなくなって……
日課だったTV電話も全て無視して、連絡を絶った。
そのうちに姉さんからもかかってこなくなったけど……

だけど、肉親なのだから、身内なのだから事件の真相くらいは話してくれるものだと思っていた。
だけど、それは一向に話してくれなかった。それからというもの、全く姉さんと口を訊かなくなった。

ミツの兄が事件の真相を暴いたという。
そのため、姉さんへの冤罪は免れた。
だが、現場への偽装工作や過去の違法捜査は咎められ、有罪判決がくだった。

1年と半年の刑を終えて、既に出所はしているはずだ。

グラスに入ったカクテルを飲み干して、テーブルに置くと、答えた。

「きちんと姉さんと仲直りしたいです。
いずれメイと結婚するときが来たら、姉さんも式に呼んで、おめでとうの言葉を貰いたいですから。」
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