ボーダー
しばらく泣いたら、何だかお腹が空いてきたので、リビングに降りた。

すると、お風呂上がりだろうか。
髪が濡れている蓮太郎と鉢合わせになった。
下はスウェットだけど、上はタンクトップにパーカー。
ヤバいくらい色気を感じる。

髪も濡れてるし。
水も滴るイイ男とは、きっと蓮太郎のような人のために作られた言葉だろう。

蓮太郎の作った回鍋肉と杏仁豆腐はプロの料理人が作った、とまではいかなくても、料理に慣れた人が作ったと思わせるくらいには美味しかった。

「美味しい。
私も、もう少し上手くならないと。」

「いや、全然そんなことないから。」

「……それにしても、ゲーム強かったな、村西さん。」

「そうね。
私たちの完敗ね。」

「……この間のやつは本気じゃなかったんじゃないか、って思ったほどだよ。」

「うん。そうかもしれないわ。」

この前の村西さんは、私達でも勝てた。
あれ、もしかしなくても、ガキ相手にはこれくらいで十分、って、手加減してくれてた?

なんだか癪だ。

そんな会話をしながら夕食を終える。

さっきから、蓮太郎の整った顔を見つめては目を逸らす、を繰り返す。

言いたいことがあるから話を振ってほしい、という合図だ。

「で……メイ。
何かオレに言いたいことあるの?」

綺麗に食べ終えた器をシンクに置いて、丁寧に水に浸けてから、私に話を振ってくれた彼。

丁寧だし、優しい。

「あるけど、まだ秘密。
お風呂上がったら話す。
私の部屋で待ってて?」

焦らす目的で濁してみる。当然、何かしらのアクションは返ってくるはずだ。
リアクションを待つように、空になった食器をシンクに置いて、浴室に向かうドアに手をかけた。
ごく軽い力で腕が引かれて、ドアの横の柱に身体が押し付けられた。

逃げようとは思わないけど、逃げようにも、正面には私の想い人がいるのだ。

「ね、メイ。
好きな子から待ちぼうけくらうの、ちょっとしんどいんだけどな?」

え?好きな子?
え、ちょっと待って。
そのワード、今言う?

そういう思わせぶりな態度をそちらが取るというのなら、こちらもお返しだ。

「えー?
そう言われても、今日は時間かけて肌の手入れしたいからさ、待っててほしいな?
ちゃんとしないとね?
実質、蓮太郎とはハジメテだし。」

頭をわしゃわしゃと撫でられて、あっさりと身体は解放される。
……だが。

「……いい子。
でも、お風呂から戻ったら何してほしいか、メイの口からちゃんと聞かせてほしいな。
早くお風呂入っておいで?
何とかオレの理性が保つうちにさ。」

耳元で囁かれた声のトーンは、いつもより1オクターブくらい低くて。

その声は、この後行われる行為を連想させた。
痛いのかな?

でも、蓮太郎だもん。
覚悟は出来ている。

いつもより、かなり丁寧に身体や頭を洗い、いつもは塗らないボディバターを塗ってから、軽く髪の毛を乾かす。
毛の処理が少々甘いが、この際仕方がない。
サックスのベアオールインワンを着る。

これで、さらに彼の気持ちを昂ぶらせることが出来るはずだ。
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