ボーダー
「では、私は先に行きます。
旦那さま、ご武運を。」

武田はそう言って、オレに頭を下げると、ニューヨークの街中では目立ちすぎるリムジンを運転して、どこかに行ってしまった。

「さぁ、乗って、蓮太郎。」

祖父母の家から無断で借りてきた、外国車に乗せられる。
茜姉さんは助手席、メイとオレは後部座席だ。

ちょっとメイが背筋を曲げると胸の谷間が見えそうで、ちょっとどころか、かなり危うい。
理性を総動員していないと、その谷間に顔を埋めたい衝動に駆られる。

「あ、忘れてた!
少し飛ばして早めに降ろすからね。
今の可愛いメイちゃんの格好には、今の蓮太郎の服装はカジュアルすぎる。」

そう言いながら、茜姉さんは助手席からオレに紙袋を手渡す。

めっちゃ高級そうなスーツの一張羅が入ってるんだけど、なにこれ?

しかもスリーピースだし、蝶ネクタイだし。
これ、着ろと?

メイも今後自分の身に起こることを予感しているのだろうか。
オレと目が合っても、すぐにフイと逸らされてしまう。

地下鉄の駅で降ろされると、降りる前にチケットを手渡された。
これで上まで上がれるようだ。

「蓮太郎、また後でね。」

茜姉さんには、無言でガッツポーズをされた。

地下鉄の駅のトイレで渡された服に着替える。

黒に近いネイビーのスーツ。
スリーピースだし、青い蝶ネクタイだし、着慣れない。
何だかソワソワする。

メイの顔が真っ赤になっている。
可愛すぎる。
今すぐにでも抱きしめたいくらいだ。

地下鉄を乗り継いで、駅を出たら少し歩く。
見上げているだけで首が痛くなりそうな建物が現れた。

エンパイアステートビルだ。

チケットを見せて、上に上がる。
指輪を鞄に隠していたのに、セキュリティチェックはアッサリ通った。
いいのか?こんなんで。

「Good Luck!」

なんて、保安官に小声で言われた。

巴姉さんに言われたとおり、86階の展望台に上がる。ニュージャージー側の景色が見えるエリアだけ、パーテーションで仕切られていた。
人一人がようやく通れるくらいに。

……まさか。

入っていいか英語で確認すると、早く入れとなぜか日本語で言われた。

何で日本語?

ちょうど陽が落ち始める時間帯。
我ながらナイスだ。
姉さんに言われた通り、ニュージャージーのニューヨークらしくない景色が見える場所にメイを立たせる。
そして、茜姉さんの携帯を鳴らす。

「見てみれば?望遠鏡で。
いいもの見れるかもよ?」

オレも片目だけで覗くと、飛んでいる小型ヘリが見えたが、何やら飛行機から垂れ幕のような布が。

『Mei Will you marry me?』

「は?ちょっと、こんなのいつ……」

「メイ。返事は?」

メイの耳元で囁いて、華奢な手を取って小箱の中身を見せる。

「ちょっと、いつから持ってたの?」

彼女はオレをぎゅっと抱きしめた。

「Of course my answer is yes!
It's not a dream, is it?
It's been my dream to be your wife someday.」

メイからの返事は、オレにとっては嬉しいものだ。大方和訳するとこのようなものだ。

『もちろん返事はイエスよ!
夢じゃないのよね?
いつか、貴方の奥さんになるのがずっと夢だったのよ!」

メイの華奢な左手の薬指に、大事な指輪をしっかり嵌める。
サイズもユルすぎず、かといってキツすぎず、ピッタリだ。

「お互いが18になったらさ、とっとと籍入れようか。
早く一緒の家に住みたいし、何ならさっそく家族増やしたい。」

そのまま彼女を抱き寄せて、彼女の唇を奪う。

パーテーションはすでに取られていて、なぜか一般客からの拍手喝采もあった。

しかしオレはメイとのキスに夢中で、このまま日付が変わるまでしていたいくらいだった。
< 202 / 360 >

この作品をシェア

pagetop