ボーダー
〈メイside〉
蓮太郎の祖父母の家……こうしてお邪魔するのはかなり久しぶりになる。
リビングにある大きな窓からは、オープンスペースが見える。少しくつろげるように、小さめのソファーと多くの観葉植物等が置いてある。
祖母から出された紅茶を頂きながら、話題は私自身のことに及んだ。
「蓮太郎から聞いたわよ。
メイちゃん、ホントに……大丈夫だったの?」
きっと、性暴力を受けたことだろう。
「ええ。
蓮太郎がすぐ……こっちに来てくれて。
ずっと一緒にいてくれましたから。
精神的に楽になれたのは、彼のおかげです。
彼がいなかったら、今でもまだ塞ぎ込んでいたでしょうから。」
「もう……
あの子ったら。
ガールフレンドのことなら全部投げ打って優先するのね。
それだけ貴女が大事なのね。
貴女が熱出した日も、体調悪いと聞くやいなやそっちに行ったのよ?
チャレンジ、つまり飛び級がかかる大事な試験の前日だったのに。」
そ……そうだったの?
今……そんなこと初めて聞いたのだけれど。
村西さんや遠藤さんの計らいで飛び級ができることになって、中学生なのに、いきなり高校レベルの講義を受けられることになった。
それには特別な試験があると話していたのを、覚えている。
いつ、そんな勉強をしていたんだろう。
あの日。
私がやっと14歳になった月。
その月ももう終わろうとしていた、暑い日だった。
裁判からの帰りに急にどしゃ降りの雨に降られた。
ずぶ濡れで帰って来てすぐにシャワーは浴びたけれど、それではダメだったらしい。
翌日、朝目覚めると身体が重く、だるかった。
起き上がる気など到底しなかったが、ベッドから離れた棚にある体温計を取って熱を測ってみると、38℃あった。
頼れる人は、蓮太郎しか思いつかなかった。
携帯電話は留守電だった。
息も絶え絶えで、藁をもすがる思いで風邪を引いたようだと一言残す。
その電話から5分もしないうちに、家のインターホンが鳴った。
呆れたように寝ててよかったのにと言って姿を見せた彼に、心から安堵感をおぼえた。
蓮太郎が看病をしてくれたおかげで、2日後には完全に風邪から回復した。
私が高熱を出して寝込んでいる傍らで、そんな大事な試験を抱えていたなんて。
悪いことしたな……
チャレンジは成功して、中学生ながら、高校レベルのいくつかの科目を受けられることに。
しかも、成績優秀だった科目は大学レベルの授業を受けられることになった。
そして、今はその大学レベルの授業で得た単位を保持したまま、これまた飛び級で大学3年生をしている。
日本の高校には留学をしている体で話を通してあるという。
留学分の授業も単位として認められる。
日本の高校生が最終学年になる直前の春に、こちらに戻って再度、アメリカの大学生として足りない単位を取れば、卒業要件を満たす。
こんな努力家の人が隣にいると、私も負けられない、と思わせてくれる。
「今日だって……ビックリしたわよ。
帰ってきたなら連絡の一本でもよこしてもいいじゃない?
いきなりドア開けたらいるんだもの。
まあ、巴から国内にいるっぽいとは聞いてたから良かったけど。
それにしても、ビックリしてるでしょうね、巴と蓮太郎。
自分の父親が宝月グループの当主だったなんて初めて知るでしょうから。」
え。
やっぱり、蓮太郎、そうなんだ……
「ね、メイちゃん。
まだその年齢じゃないけれど、ウチの孫の、蓮太郎と一緒になる気はある?」
聞かれると思った。
既に答えは準備していた。
祖父母の目をまっすぐ見つめて、答えた。
蓮太郎の祖父母の家……こうしてお邪魔するのはかなり久しぶりになる。
リビングにある大きな窓からは、オープンスペースが見える。少しくつろげるように、小さめのソファーと多くの観葉植物等が置いてある。
祖母から出された紅茶を頂きながら、話題は私自身のことに及んだ。
「蓮太郎から聞いたわよ。
メイちゃん、ホントに……大丈夫だったの?」
きっと、性暴力を受けたことだろう。
「ええ。
蓮太郎がすぐ……こっちに来てくれて。
ずっと一緒にいてくれましたから。
精神的に楽になれたのは、彼のおかげです。
彼がいなかったら、今でもまだ塞ぎ込んでいたでしょうから。」
「もう……
あの子ったら。
ガールフレンドのことなら全部投げ打って優先するのね。
それだけ貴女が大事なのね。
貴女が熱出した日も、体調悪いと聞くやいなやそっちに行ったのよ?
チャレンジ、つまり飛び級がかかる大事な試験の前日だったのに。」
そ……そうだったの?
今……そんなこと初めて聞いたのだけれど。
村西さんや遠藤さんの計らいで飛び級ができることになって、中学生なのに、いきなり高校レベルの講義を受けられることになった。
それには特別な試験があると話していたのを、覚えている。
いつ、そんな勉強をしていたんだろう。
あの日。
私がやっと14歳になった月。
その月ももう終わろうとしていた、暑い日だった。
裁判からの帰りに急にどしゃ降りの雨に降られた。
ずぶ濡れで帰って来てすぐにシャワーは浴びたけれど、それではダメだったらしい。
翌日、朝目覚めると身体が重く、だるかった。
起き上がる気など到底しなかったが、ベッドから離れた棚にある体温計を取って熱を測ってみると、38℃あった。
頼れる人は、蓮太郎しか思いつかなかった。
携帯電話は留守電だった。
息も絶え絶えで、藁をもすがる思いで風邪を引いたようだと一言残す。
その電話から5分もしないうちに、家のインターホンが鳴った。
呆れたように寝ててよかったのにと言って姿を見せた彼に、心から安堵感をおぼえた。
蓮太郎が看病をしてくれたおかげで、2日後には完全に風邪から回復した。
私が高熱を出して寝込んでいる傍らで、そんな大事な試験を抱えていたなんて。
悪いことしたな……
チャレンジは成功して、中学生ながら、高校レベルのいくつかの科目を受けられることに。
しかも、成績優秀だった科目は大学レベルの授業を受けられることになった。
そして、今はその大学レベルの授業で得た単位を保持したまま、これまた飛び級で大学3年生をしている。
日本の高校には留学をしている体で話を通してあるという。
留学分の授業も単位として認められる。
日本の高校生が最終学年になる直前の春に、こちらに戻って再度、アメリカの大学生として足りない単位を取れば、卒業要件を満たす。
こんな努力家の人が隣にいると、私も負けられない、と思わせてくれる。
「今日だって……ビックリしたわよ。
帰ってきたなら連絡の一本でもよこしてもいいじゃない?
いきなりドア開けたらいるんだもの。
まあ、巴から国内にいるっぽいとは聞いてたから良かったけど。
それにしても、ビックリしてるでしょうね、巴と蓮太郎。
自分の父親が宝月グループの当主だったなんて初めて知るでしょうから。」
え。
やっぱり、蓮太郎、そうなんだ……
「ね、メイちゃん。
まだその年齢じゃないけれど、ウチの孫の、蓮太郎と一緒になる気はある?」
聞かれると思った。
既に答えは準備していた。
祖父母の目をまっすぐ見つめて、答えた。