ボーダー
それが終わると、普通にエンパイアステートビルを観光した。
その後、近くのホテルに宿泊した。
本来、21歳未満の人はホテルに泊まれない。
しかし、蓮太郎の執事、武田さんや巴さん、茜さんはれっきとした大人である。
私たちの仲よさげな様子が、家族のように見られたのだろう。
年齢確認もされず、宿泊できた。

蓮太郎は、宝月グループの当主らしく、さっそく会議に臨むという。

不安そうにする私に、耳元で告げる。
彼の吐息でピアスが揺れて、くすぐったい。

心配するな、メイ。
話を纏めるわけじゃない。
書類とかを持ってないところを見ると、話を打診されるくらいだと思う。

ちょっと行ってくるよ。

レストランへのエスコートは、オレの日本での知り合いの奥さんに任せてある。

ちゃんと待っててな。」

軽くキスを落とされる。

何だか夢みたいだ。

地下のレストランで、先に集まった面々で歓談をする。

案内してくれた志穂という女性は、礼儀も弁えていて、それでいてスタイルがとびきり良いわけではないが、所作が落ち着いている。

彼女の義理の父親は、今はマレーシアと日本を行ったり来たりしているという。
彼の前の奥さんだという人に、理想の挙式について聞かれた。
昼間、茜さんに答えた通りに話す。

「なるほどね。
アメリカと日本の挙式のいいとこ取りね。
アメリカだと、ウィッシュリストを共有して、その中から式への参列者が選ぶものね。
日本みたいに、ご祝儀で何万円、なんて細かい決まりはないもの。

あと、アメリカだと新郎新婦とも歓談ができるものね。
日本だと、新郎新婦はずっと高座にいるから、久しぶりに会う人とも話せなかったりするし。

日本はお色直しとか、ゲストのために余興やったりとか、そういうおもてなし感は強いわね。

そういう、日本の式のいいところだけ取り入れて、基本はアメリカ式でいいんじゃない?

そんな感じで、彼とも話してみたら?
多分、参列者も貴方たちと同い年が多いんでしょう?
きっと新鮮に映るわ。

何かあったら連絡をちょうだい。
助けになるわ。」

貴重品を詰め込まれたクラッチバッグ。
外ポケットの小さい隙間に、名刺を突っ込まれた。

南 亜子《みなみ あこ》と書かれていた。

おめでとう!と強く背中を叩かれた。
村西さんだ。

「お前らに先を越されるとはな。

スーツとドレス、見違えたぞ。
こっそり様子を見ていたが、ホントに17歳か疑われてたな。
それだけ大人っぽい、ってことだ。
ほら、飲め。
祝いのノンアルコールカクテルだ。」

遠藤さんも、蓮太郎の肩をバシバシと叩いている。

手に持っているのは、私と同じノンアルコールカクテルだろうか。

今後、蓮太郎みたいに、私にも執事をつけることが検討されるようだ。

別にいらないんだけどなぁ。
蓮太郎がいればそれでいいし。

余韻が冷めやらぬまま、蓮太郎や村西さん、遠藤さんが明日には日本に帰るというので、お開きになった。

部屋は豪華なスイートルーム。
先程までいた、エンパイア・ステートビルが一望出来る。

こんな豪華な部屋、いいのだろうか。

婚約者になった蓮太郎に本当は抱かれたかったが、彼の明日の長時間のフライトに影響を与えては困る。

「手だけは、繋いでいたい。
ダメ?」

「んー?
可愛いお願いしてくるね?
さすがフィアンセ。

今日はできないけど、次会ったら覚悟してな?
何なら次会ったときに着けないでチャレンジしてみる?」

何を、というのはもう分かってはいるが、言うのは恥ずかしい。
照れたように婚約者の肩を軽く叩いた。

いつか、近いうちにそうなったらいいな。

どちらからともなく唇を重ねた。
それが合図になったように、2人で手を繋ぎながら眠りについた。
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