ボーダー
武田が、無言でオレに資料を差し出した。
「お、ありがとう。」
見ると、例の人間興信所の資料だった。
そこまで調べてたのかよ。
一木 有海《いちきあみ》。
『魔導学校にいたが、霧生 菜々美とつるんで、魔導学校創設者の孫、蒲田 華恵を虐めていた。
イジメは帳 奈斗の指示だった。
そのイジメにより蒲田は胃を壊して数ヶ月入院する事態となったことに、心を痛めていた。
その頃から嗜んでいたピアノが音楽セラピーの役割を果たし、改心したようだ。
イジメの被害者である蒲田 華恵に謝罪して、本人もビックリするくらい、にこやかに赦してもらえたことに、本人が1番驚いていた。
中学校は御劔 優作、蒲田 華恵、霧生 菜々美と同じ。
中学・高校ともに合唱コンクールや校歌斉唱の際は必ず伴奏を頼まれるほど。
高校の授業の合間を縫って数々のピアノの発表会やコンクールに出場しており、有名な音大から推薦を貰っている。
本人はどの音大に行こうか思案中。
高校の教師からは推薦に有利になるため、学校の授業は公欠にして良いのでどんどん参加しろと言われている。
絶対音感をもっている。
帳 奈斗のことは今でも気にかけている。
当時の悪い仲間をけしかけて、蒲田を無理やり犯す前に、その行為だけは止めるようにと、たった1人で告げに行った勇気の持ち主。
その結果、自らも無理やり犯される。
本人はというと、好意を抱いている者と、こんな形だとしても、身体を重ねることが出来て良かったと思っている節がある。
1度だけ、ピアノの発表会の帰りに若い不良に絡まれたことがあるが、たまたま通りかかった帳 奈斗に助けられる。
そこで身寄りのない子供たちの世話をする施設に、彼の弟と共にいることを知る。
施設の場所を調べたいとは思っていたが、その前に発表会やコンクール、学校の大事な試験に忙殺され、今に至る。
自分の恋人候補を勝手に探してきては会わせようとする両親に辟易している様子も見受けられる。』
……なるほど。
ハナとミツ、そして由紀ちゃんの友人だったのか。
資料を覗き込んだハナとミツもビックリしていた。
「音大から推薦、って……。
すごすぎない?」
「就職活動の青田買いじゃあるまいし。
世の中広いな……」
ちょうど、由紀ちゃんの携帯が可愛い音を鳴らした。
画面には、『一木 有海』と表示されている。
タイムリーすぎるだろ。
「もしもし。
……由紀です。有海?」
手慣れた様子でスピーカーにしてから電話に出る由紀ちゃん。
『あ!由紀!
良かった、やっと出てくれた!
コンクールやるホールがある最寄り駅の矢立駅は着いたの。
ちょっと用事があって銀行に行ってたんだ。
そしたら銀行のテレビで速報出てたから心配になって。
奈斗のいる施設の外で事件だって。
奈斗、大丈夫?』
「有海ったら。
大事なコンクールより帳くんなのね。
もう秒読みなんだし、付き合っちゃえばいいのに。
帳くんなら肩と膝を擦りむいてはいるけど大丈夫だから、心配しなさんな。
検査はするけど、念のためだから。
いいから、コンクールに集中しなさい。
海外から、有海の憧れのピアニストも審査員で来日してくださっているんでしょ?
今日のコンクールが、有海の将来に繋がるかもしれないんだから、ほどほどに頑張ってね!」
『由紀、なんでコンクールの詳細知ってるの?
とにかく、教えてくれてありがと!
奈斗に大きな怪我がないなら、とりあえず不安は消えた。
ピアノ演奏、思いっきり頑張れるよ!
由紀も、気をつけて!』
「ありがと!
隣にハナも優くんもいるし、何とかなりそう!ハナと優くんのもう1人の幼なじみさんも、とっても頼りになったから。
コンクール終わった頃に連絡くれると、こっちも助かる。
じゃ、頑張ってね!」
由紀ちゃんは電話を切った。
由紀ちゃんが電話をしている最中に、中学生くらいの男の子が、こちらをじっと覗き込んでいた。
見慣れない車が2台も停まっているから珍しいのだろうか。
車の窓を開けて、男の子を中に入れてやる。
「帳 勇馬《とばり ゆうま》です!
将輝お兄ちゃんも、お兄ちゃんも、良太郎も帰って来ないし、どうなってるの?」
茶髪で背の低い男の子。
Tシャツにハーフパンツが子供らしい。
この子が帳 奈斗の弟か。
由紀ちゃんの膝ですやすやと眠っている男の子は、良太郎《りょうたろう》というらしい。
聞き覚えのある名前。
……もしかして。
「……さすがは旦那さま。
もう勘付いていらっしゃるようで。
父親の曹太郎様が遺された、最後の家族……貴方様の弟本人でございます。」
……やっぱりな。
「お、ありがとう。」
見ると、例の人間興信所の資料だった。
そこまで調べてたのかよ。
一木 有海《いちきあみ》。
『魔導学校にいたが、霧生 菜々美とつるんで、魔導学校創設者の孫、蒲田 華恵を虐めていた。
イジメは帳 奈斗の指示だった。
そのイジメにより蒲田は胃を壊して数ヶ月入院する事態となったことに、心を痛めていた。
その頃から嗜んでいたピアノが音楽セラピーの役割を果たし、改心したようだ。
イジメの被害者である蒲田 華恵に謝罪して、本人もビックリするくらい、にこやかに赦してもらえたことに、本人が1番驚いていた。
中学校は御劔 優作、蒲田 華恵、霧生 菜々美と同じ。
中学・高校ともに合唱コンクールや校歌斉唱の際は必ず伴奏を頼まれるほど。
高校の授業の合間を縫って数々のピアノの発表会やコンクールに出場しており、有名な音大から推薦を貰っている。
本人はどの音大に行こうか思案中。
高校の教師からは推薦に有利になるため、学校の授業は公欠にして良いのでどんどん参加しろと言われている。
絶対音感をもっている。
帳 奈斗のことは今でも気にかけている。
当時の悪い仲間をけしかけて、蒲田を無理やり犯す前に、その行為だけは止めるようにと、たった1人で告げに行った勇気の持ち主。
その結果、自らも無理やり犯される。
本人はというと、好意を抱いている者と、こんな形だとしても、身体を重ねることが出来て良かったと思っている節がある。
1度だけ、ピアノの発表会の帰りに若い不良に絡まれたことがあるが、たまたま通りかかった帳 奈斗に助けられる。
そこで身寄りのない子供たちの世話をする施設に、彼の弟と共にいることを知る。
施設の場所を調べたいとは思っていたが、その前に発表会やコンクール、学校の大事な試験に忙殺され、今に至る。
自分の恋人候補を勝手に探してきては会わせようとする両親に辟易している様子も見受けられる。』
……なるほど。
ハナとミツ、そして由紀ちゃんの友人だったのか。
資料を覗き込んだハナとミツもビックリしていた。
「音大から推薦、って……。
すごすぎない?」
「就職活動の青田買いじゃあるまいし。
世の中広いな……」
ちょうど、由紀ちゃんの携帯が可愛い音を鳴らした。
画面には、『一木 有海』と表示されている。
タイムリーすぎるだろ。
「もしもし。
……由紀です。有海?」
手慣れた様子でスピーカーにしてから電話に出る由紀ちゃん。
『あ!由紀!
良かった、やっと出てくれた!
コンクールやるホールがある最寄り駅の矢立駅は着いたの。
ちょっと用事があって銀行に行ってたんだ。
そしたら銀行のテレビで速報出てたから心配になって。
奈斗のいる施設の外で事件だって。
奈斗、大丈夫?』
「有海ったら。
大事なコンクールより帳くんなのね。
もう秒読みなんだし、付き合っちゃえばいいのに。
帳くんなら肩と膝を擦りむいてはいるけど大丈夫だから、心配しなさんな。
検査はするけど、念のためだから。
いいから、コンクールに集中しなさい。
海外から、有海の憧れのピアニストも審査員で来日してくださっているんでしょ?
今日のコンクールが、有海の将来に繋がるかもしれないんだから、ほどほどに頑張ってね!」
『由紀、なんでコンクールの詳細知ってるの?
とにかく、教えてくれてありがと!
奈斗に大きな怪我がないなら、とりあえず不安は消えた。
ピアノ演奏、思いっきり頑張れるよ!
由紀も、気をつけて!』
「ありがと!
隣にハナも優くんもいるし、何とかなりそう!ハナと優くんのもう1人の幼なじみさんも、とっても頼りになったから。
コンクール終わった頃に連絡くれると、こっちも助かる。
じゃ、頑張ってね!」
由紀ちゃんは電話を切った。
由紀ちゃんが電話をしている最中に、中学生くらいの男の子が、こちらをじっと覗き込んでいた。
見慣れない車が2台も停まっているから珍しいのだろうか。
車の窓を開けて、男の子を中に入れてやる。
「帳 勇馬《とばり ゆうま》です!
将輝お兄ちゃんも、お兄ちゃんも、良太郎も帰って来ないし、どうなってるの?」
茶髪で背の低い男の子。
Tシャツにハーフパンツが子供らしい。
この子が帳 奈斗の弟か。
由紀ちゃんの膝ですやすやと眠っている男の子は、良太郎《りょうたろう》というらしい。
聞き覚えのある名前。
……もしかして。
「……さすがは旦那さま。
もう勘付いていらっしゃるようで。
父親の曹太郎様が遺された、最後の家族……貴方様の弟本人でございます。」
……やっぱりな。