ボーダー
美味しいお昼ごはんを頂いた後、オレとハナ、ミツは学校に登校するべく、武田が運転する車に乗り込んだ。
そっか。ハナとミツがあのとき、学生寮で早く制服に着替えろと急かしたのは、午後から登校するためだったのか。
体育着は学校のロッカーの中だ。
問題はない。

「武田さん、さすがは宝月グループ。
あれだけのケータリング、すごいです!
どれも美味しかったです!」

「喜んで頂けて光栄です。
急遽主催者がひどい風邪を引いてキャンセルになったパーティーがあると伺いました。
そのケータリング予定だったものをこちらに呼び寄せたまでです。」

そういうことだったんだな。

「それにしても、コイツでその、宝月グループの後継者は務まるのか?
エキストラとしてドラマに出てたようなやつだぞ。
日本の芸能事務所が放っておかない逸材だと思うが。

小学生の時、確かに親に駄々をこねる子供役や体育の器械体操が上手い中学生役で何かのドラマか映画に出たことがある。
ミツの奴、よく覚えてるな。

「ご心配には及びません。
旦那さまには、今年の春でアメリカに戻ってから、MBAの講義をみっちり受けていただき、経営の基礎を学んでいただきます。
その上で、どうしてもタレント業を、ということでしたら策を考えます。」

そんな話をしていると、学校に着いた。

オレは由紀ちゃん、良太郎と勇馬くん、さらに武田から、それぞれの連絡先を聞いた。

全員から連絡を受けるのがオレの役目だ。
オレはそれをハナに伝える。
ハナは、ミツに連絡を伝える役割を担う。

授業中なので、携帯電話は使えない。
しかし、オレたちにはエージェントルーム許可証として使えるブローチがある。
これにはテレパシー機能もついている。
体育の時間のうちは、これで連絡を取れる。

ロングホームルームの時は、机の下に携帯を隠しておけばいい。
メールくらいなら余裕だ。

「それでは、私は1度賢正学園に戻ります。
何かあればご連絡をいたします。
皆様、頑張ってください。」

それだけを言って、車は門をくぐっていった。

体育の時間は男子は剣道、女子はバレーボールをやっていたらあっという間に過ぎた。
柔道や護身術、合気道の類ならアメリカにいるときに少しかじったのだが、どうも剣道は苦手だ。

体育が終わって休憩時間の後、メールが来ていたのでその内容をハナとミツに伝えた。

「今、武田を含めた由紀ちゃん、良太郎、勇馬は病院にいて、帳 奈斗の検査結果待ちをしているそうだ。
浅川 将輝は全治1ヶ月だって。

武田が迎えに来るそうだ。」

ハナもミツも悲痛な面持ちをしていた。

「全治1ヶ月だが助かるんだ。
今にも泣きそうな顔してんな?
楽しい文化祭のこと話し合うんだろうが。」

文化祭は、昨年は劇だったので、今年はクレープ屋をやることになった。

準備が大変そうだが、宝月グループも何かしら尽力できることはあるだろう。

武田に事の次第を伝えるついでに、あることをメールで頼む。

『依頼の件はかしこまりました。

皆様は今病院におります。

今、そちらに向かっているところです。
もう間もなく着きます。』

頼んだこと以外にも、今の状況をメールで伝えてくれるのがありがたい。

ちょうど、ロングホームルームと一緒に通常のホームルームも終わらせたため、もう各々の部活やらに行って良いことになっている。

部活には行く気になれないのか、部員に休む旨を伝えるハナとミツ。
もちろんオレもだ。

その時、学校の門の前に大きなフェラーリが止まったのが見えた。

今度はフェラーリで登場か、武田の奴。

ハナとミツ、オレも乗る。

「今回はフェラーリです。
少々寄り道をさせていただきます。
ある方を拾いますので。」

そう言って車を走らせた武田。
着いた先は、ここから数キロ先の矢立駅。
ロータリーに大きなトートバッグを持った女の子がいた。
黒いロングヘアーは肩を超える長さで、着ている白いブラウスによく映えている。
その子の前に車を停めて、乗るように言う。

「有海!
久しぶり!
元気?」

この子、なの?
音大への推薦貰ってる子。
< 215 / 360 >

この作品をシェア

pagetop