ボーダー
「ハナ?
久しぶり!
あ、御劔くんも久しぶり!
クリパ以来だね!」

懐かしそうに、ハナとミツの2人と話し出す。

「コンクールが終わって、無事に金賞貰えたから、終了後、着替えてすぐにここに。
ちょうど拾ってくれて助かった!

えっと、初めまして、だよね?
ハナと御劔くんの中学の同級生、一木 有海。
よろしくね?
蓮太郎くん、だっけ?」

自己紹介を終えると、早速本題に入る。

「うん、よろしく。

それで、有海ちゃん。
急いで来てもらって早速悪いね。
……奈斗のことで話があるんだ。

掠り傷だけど、目の前で親友が刺されてショックは受けてるはずだ。
その傷も癒やさなきゃならない。
念の為に異常がないか検査している。
異常がないと分かったら、すぐアメリカに行くことになる。

離れることになるけど、大丈夫?
後悔はないかな?」

オレがそう問うなり、着ていた花柄キュロットの裾を、きゅっと強く掴む有海ちゃん。

ゆっくり、でも確実に縦に首を振った。

「私、音大の途中にどこかの国に留学するつもりなんだ。
それを私のピアノの先生に話したの。
そしたらこう言ってくださった。

『いろいろピアノをはじめとした音楽のイロハを指導してくれた方がイタリアにいるの。
その方のコンサートが丁度そこであるから下見ついでに招待する』って。

それが、ちょうど明後日なの。

うまく、一緒のタイミングで日本を発つことができるなら、その時に、とは思ってる。」

「……そっか。
宝月グループの後継者として、オレはアメリカで好きな子にプロポーズした身だ。
出来ることがあれば協力するよ。」

「私ももちろん!協力する!
有海だけじゃない、由紀にもね!」

「ハナや由紀ちゃんに、女性目線は任せるとしよう。
オレとミツ、で男性目線でのアドバイスをするか。
頼りになるかは、分からないが。」

そんな話をしているうちに、病院へ到着した。

お見舞の人が休憩できるスペースに居た由紀ちゃんは、有海を見てVサインをした。
そうしている本人は、泣いたのか目が赤いが。

由紀ちゃんの隣には、良太郎と勇馬くんもちょこんと座っている。

検査を終えて異常なしだった、と言って歩いてきた奈斗。
その彼の顔を見るなり、目を潤ませて抱きついたのは有海ちゃんだ。

「お前……コンクールはどうしたんだよ。
大事な大舞台だったんじゃないの?」

「んー?
ちゃんと、奈斗に届くように弾いた。
おかげさまで、金賞獲れたよ。」

「お、おめでと。
ま、お前なら大丈夫だって、心配はしてなかったけどな。
俺も、なんだかんだ言いながら欠かさず発表会の日は足を運んでたし。

学校以外で出掛けるときはホワイトボードに行き先と帰宅時間を書く決まりになってるんだ。

なんとなく何ヶ月かに1回、大きな会場の名前を書くから、恒例みたいになってたな。

今由紀ちゃんの横に座っている俺の弟や、良太郎には彼女に会いに行くんだろ、って言われたし。」

会話が既にカップルなんだけど。
有海ちゃんは、顔を耳まで真っ赤にしている。
早く付き合えばいいのに。

そんなラブラブな会話を微笑ましいと思っていると、武田が資料を渡してきた。

……由紀ちゃんについての資料だ。
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