ボーダー
「あのさ、何で、今俺にこんな映像を見せた?
第一、俺はお前の大事な女を、今の映像に映ってた由紀以上の、酷い目に遭わせた男だぞ?
何発か殴られるのは覚悟の上だったんだけど。蓮太郎、だっけ?
お前が俺に親切にする義理、ないと思うんだけど。」
俺の言葉を聞いて、ふっと肩の力を抜いた蓮太郎。
「由紀ちゃんの言ってた通りだ。
周囲の様子は気にしていない風だけどちゃんと見てる。
判断力も高い。
現に、俺は一言もお前の前でメイの名前を出してないのに、分かっただろ。
何より人の感情の機微には敏感だ。
……地頭もいい。
ちゃんと義務教育受けてたら、かなりトップクラスの高校狙えてたのに、もったいないって言ってたぜ。」
そこで一度言葉を切って、息を吐き出すと、続けた。
「お前が、俺の大事な婚約者のメイを酷い目に遭わせた事実は消えないけどさ。
それでも。
……お前が更正の余地もないくらい、性根ねじ曲がってたら一発どころか、数発殴ってやろうと思ってた。
それこそ、その世間でイケメンだと話題になりそうな顔が腫れ上がるくらいにな。
でも、由紀ちゃんに好意を抱いてから、徐々に浅川くんの心の奥底にしまい込まれてた優しさが顔を出してきた気がしていて。
更正すればちゃんと良い奴になりそうだから、殴るのも辞めたし、ちゃんと同年代らしく接することにした。
何より、宝月グループの後継者になる人間が、簡単に人を殴るのもどうかと思うし。
由紀ちゃんは、こないだオレと一緒にいた男女2人の親友。
オレがアメリカにいなかったら、一緒の校舎で授業受けてただろうな。
オレの幼馴染の親友なら、オレの親友でもあるって論理。
オレの親友の彼氏である将輝、お前も、もうオレの親友だと思ってる。
……親友が困ってたら助けるのが努めだとオレは思ってる。
だから、策を練りたくて、あんな映像見せたんだ。
辛かったろ、悪かったな。」
十分、蓮太郎も感情より理屈で動く人間で、地頭もいいし、洞察力もあると思った。
しかし、そこまではあえて言わなかった。
「まぁ、俺は、去年の秋くらいに成田空港で見てるんだ。
当時はまだ恋人未満で、今は婚約者の相手を、お前が抱きしめる姿をな。
それと今のお前が似てるから、そこでピンときた。
それで、わざわざ俺にこれを見せたからには、策があるんだろうな。
俺の大事で仕方がないプリンセスを、これ以上苦しめない策が。」
「ああ。
いくつかは持ってる。
だが、お前の知恵も借りたいのと、協力を仰ぎに来たんだ。」
俺は、協力の証として、蓮太郎と拳を突き合わせた。
2人で俺の病室に戻る。
奈斗と、その想い人との映像も見たらしい中学生2人は、奈斗を映像越しに冷やかしていた。
蓮太郎は、おもむろに口を開いた。
「1番、手っ取り早い方法がある。
日本の高校から逃げるんだよ。
日本じゃ、高校は義務教育じゃないからな。
……アメリカだと義務教育だが。
幸いにも、由紀ちゃんは、映像に映ってた授業の単位以外は取り終わっているという。
それなりに権力のある人が、由紀ちゃんの通う高校のお偉いと面談する。
そして、早めの卒業を認めさせる。
今から準備すれば、向こうの秋入学に間に合う上に、彼女の実力ならチャレンジ、つまり飛び級は余裕だろう。
その期間の猶予は、将輝、お前が退院するまでだ。
将輝、彼女を説得できるか?
お前の更正ためのカウンセリングと同時に、由紀ちゃん自身もアメリカ入りする、その気はあるのか聞けばいい。
オレたちでは説得に応じなくても、彼氏である将輝の言葉なら聞くはずだからな。
それに、由紀ちゃん自身も、将輝と恋人になったばかりで離れるよりは一緒にいたいと思うはずなんだ。
まずは、将輝。
お前が説得してくれ。
……由紀ちゃんがそれを受け入れなかったときのために、動く手立ても考えてはある。
バカとハサミも使いようだが、金とコネと権力も使いようだと、オレは思ってるからな。」
……さらりと怖いこと言うな、コイツ。
蓮太郎は、1台の折りたたみ型携帯電話を差し出した。
「良太郎と勇馬くんから、施設の人たちは自由に携帯電話を使えない、って聞いてな。
それでは連絡を取るのに不便だろう、って思ったんだ。
宝月グループと法人契約してもらっている携帯会社に依頼して、賢正学園とも法人契約を結んでもらった。
これで、携帯電話は使えるようになる。
だから、将輝にも渡しておく。
これで由紀ちゃんと連絡を取ればいい。
彼女にも、特別に新しい携帯を渡してある。
いかがわしい電話やメールが大量に入ってくるようになったから、電話番号もメールアドレスも変わってるからな。
既に奈斗には渡してあるし、ここにいる全員、いや、5日前に退去して押し寄せた連中の連絡先も入ってる。」
お礼を言って、有り難くその携帯電話を受け取る。
なんだか、信頼のおける仲間が急に増えて、落ち着かない気分になった。
この感じが、歳相応の高校生なのだろうか。
「そういえば、まだ浅川様にお見せしていない映像があるんでした。」
そう言って、映像を再生するのは武田さんだ。
第一、俺はお前の大事な女を、今の映像に映ってた由紀以上の、酷い目に遭わせた男だぞ?
何発か殴られるのは覚悟の上だったんだけど。蓮太郎、だっけ?
お前が俺に親切にする義理、ないと思うんだけど。」
俺の言葉を聞いて、ふっと肩の力を抜いた蓮太郎。
「由紀ちゃんの言ってた通りだ。
周囲の様子は気にしていない風だけどちゃんと見てる。
判断力も高い。
現に、俺は一言もお前の前でメイの名前を出してないのに、分かっただろ。
何より人の感情の機微には敏感だ。
……地頭もいい。
ちゃんと義務教育受けてたら、かなりトップクラスの高校狙えてたのに、もったいないって言ってたぜ。」
そこで一度言葉を切って、息を吐き出すと、続けた。
「お前が、俺の大事な婚約者のメイを酷い目に遭わせた事実は消えないけどさ。
それでも。
……お前が更正の余地もないくらい、性根ねじ曲がってたら一発どころか、数発殴ってやろうと思ってた。
それこそ、その世間でイケメンだと話題になりそうな顔が腫れ上がるくらいにな。
でも、由紀ちゃんに好意を抱いてから、徐々に浅川くんの心の奥底にしまい込まれてた優しさが顔を出してきた気がしていて。
更正すればちゃんと良い奴になりそうだから、殴るのも辞めたし、ちゃんと同年代らしく接することにした。
何より、宝月グループの後継者になる人間が、簡単に人を殴るのもどうかと思うし。
由紀ちゃんは、こないだオレと一緒にいた男女2人の親友。
オレがアメリカにいなかったら、一緒の校舎で授業受けてただろうな。
オレの幼馴染の親友なら、オレの親友でもあるって論理。
オレの親友の彼氏である将輝、お前も、もうオレの親友だと思ってる。
……親友が困ってたら助けるのが努めだとオレは思ってる。
だから、策を練りたくて、あんな映像見せたんだ。
辛かったろ、悪かったな。」
十分、蓮太郎も感情より理屈で動く人間で、地頭もいいし、洞察力もあると思った。
しかし、そこまではあえて言わなかった。
「まぁ、俺は、去年の秋くらいに成田空港で見てるんだ。
当時はまだ恋人未満で、今は婚約者の相手を、お前が抱きしめる姿をな。
それと今のお前が似てるから、そこでピンときた。
それで、わざわざ俺にこれを見せたからには、策があるんだろうな。
俺の大事で仕方がないプリンセスを、これ以上苦しめない策が。」
「ああ。
いくつかは持ってる。
だが、お前の知恵も借りたいのと、協力を仰ぎに来たんだ。」
俺は、協力の証として、蓮太郎と拳を突き合わせた。
2人で俺の病室に戻る。
奈斗と、その想い人との映像も見たらしい中学生2人は、奈斗を映像越しに冷やかしていた。
蓮太郎は、おもむろに口を開いた。
「1番、手っ取り早い方法がある。
日本の高校から逃げるんだよ。
日本じゃ、高校は義務教育じゃないからな。
……アメリカだと義務教育だが。
幸いにも、由紀ちゃんは、映像に映ってた授業の単位以外は取り終わっているという。
それなりに権力のある人が、由紀ちゃんの通う高校のお偉いと面談する。
そして、早めの卒業を認めさせる。
今から準備すれば、向こうの秋入学に間に合う上に、彼女の実力ならチャレンジ、つまり飛び級は余裕だろう。
その期間の猶予は、将輝、お前が退院するまでだ。
将輝、彼女を説得できるか?
お前の更正ためのカウンセリングと同時に、由紀ちゃん自身もアメリカ入りする、その気はあるのか聞けばいい。
オレたちでは説得に応じなくても、彼氏である将輝の言葉なら聞くはずだからな。
それに、由紀ちゃん自身も、将輝と恋人になったばかりで離れるよりは一緒にいたいと思うはずなんだ。
まずは、将輝。
お前が説得してくれ。
……由紀ちゃんがそれを受け入れなかったときのために、動く手立ても考えてはある。
バカとハサミも使いようだが、金とコネと権力も使いようだと、オレは思ってるからな。」
……さらりと怖いこと言うな、コイツ。
蓮太郎は、1台の折りたたみ型携帯電話を差し出した。
「良太郎と勇馬くんから、施設の人たちは自由に携帯電話を使えない、って聞いてな。
それでは連絡を取るのに不便だろう、って思ったんだ。
宝月グループと法人契約してもらっている携帯会社に依頼して、賢正学園とも法人契約を結んでもらった。
これで、携帯電話は使えるようになる。
だから、将輝にも渡しておく。
これで由紀ちゃんと連絡を取ればいい。
彼女にも、特別に新しい携帯を渡してある。
いかがわしい電話やメールが大量に入ってくるようになったから、電話番号もメールアドレスも変わってるからな。
既に奈斗には渡してあるし、ここにいる全員、いや、5日前に退去して押し寄せた連中の連絡先も入ってる。」
お礼を言って、有り難くその携帯電話を受け取る。
なんだか、信頼のおける仲間が急に増えて、落ち着かない気分になった。
この感じが、歳相応の高校生なのだろうか。
「そういえば、まだ浅川様にお見せしていない映像があるんでした。」
そう言って、映像を再生するのは武田さんだ。