ボーダー
「……将輝?
会えて良かった。」

にっこりと微笑んで言うのは、由紀の十八番。
その笑顔に俺は弱い。
抱きしめて、キスはもちろんのこと、その先もしたくなる。

頑張れと言わんばかりに、蓮太郎が俺の背中を叩いてくる。
良太郎くんと勇馬なんて、それぞれ片手で握りこぶしを作っている。

由紀を、病室の外のラウンジに連れ出して、話を振った。

「由紀さ、いつまでこっちにいる気なの?
俺、この間、夜中に由紀の声聞いてから考えたんだ。
由紀が、相手にする価値のない輩からくだらない仕打ち受けてるのに、それに耐えてまで、こっちにいる必要ないんじゃないか、って。」

……伝わらないのか、由紀はまばたき一つせずに、俺の話の続きを待っている。

「……結論から言う。
由紀、俺と一緒にアメリカ行く気ある?」

由紀はしばらく、考え込むように目線を宙に向けていたが、やがて大きく息を吐いてから、口を開いた。

「……将輝の言うとおりだと思う。

私を心配して、今将輝と同じことを言ってくれた教師もいたの。

その路線で、動きたくて。

アメリカは9月入学なの。
遠藤さんとか、私の母が、上手く話を通してくれて。
遠藤さんや私の母が出たアメリカの大学に、飛び級で入学できることになったの。
高校生の義務教育を終えたくらいの知能は持ってる、って判断されてね。

だけど、割と位の高い教師が、生徒とグルになって私にいろいろ仕掛けてるから、ちょっと難しそう。」

そこまで聞くと、俺は由紀をぎゅっと抱きしめた。

「……由紀、大事なのはお前がどうしたいか、ってことだ。
由紀がそうしたいなら、俺はそれを応援する。あらゆるところに、協力を仰ぐ。
……だよな、蓮太郎。」

いつの間にか、俺の後ろに来ていた蓮太郎。

「……由紀ちゃんの気持ちは聞かせてもらったよ。
こっちは幸いにも、協力してくれる人なら、日本とアメリカの両方にいるからね。
喜んで協力するよ。」

「蓮太郎様がそう仰るのでしたら。
私も、惜しみない協力をさせていただきます。
宝月グループの真価、今こそ見せて差し上げますよ。」

……仲間がいると、心強い。
1名、怖いことを言う人もいるが。

ここまで順調に事が運ぶと、気になることがあるので、蓮太郎に聞いた。

「あのさ、どうやって向こうで生活するんだ?
俺が更生する間。
俺は、カウンセリング部屋を割り当てて貰えばいいとして、由紀まで同じカウンセリング部屋の割り当ては、ナンセンスだと思うんだ。」

何だ、そんなことかとでも言うように、蓮太郎はあっさり言った。

「……業務資本提携をした柏木グループが、アメリカ、そして日本にも物件をいくつも持ってる。
そのうちの1つを借りればいい。
何なら由紀ちゃんと2人で、1つ屋根の下でいいんじゃん?
あ、ちなみに、人の近くにいたほうがいいだろう、ってことで、奈斗は、オレの祖父母の家に住ませている。」

その言葉を聞いて、由紀も俺も、ポカンと口を開けた。

「……だってよ。どうする?由紀。」

由紀は、顔を真っ赤にして、いつも堂々としている彼女らしくない声音で言った。

「私は、将輝がそれでいいなら構わない。
その方が、あっちの大学にも通いやすいし。
それに、一緒に住むことは頭にはあったから、むしろ嬉しいし。」

最後の方の言葉が照れているせいか尻すぼみなのが、いつもの由紀らしくなくて可愛い。

軽くキスを落としてやる。

明日は、由紀は登校しなくていいらしい。
明日は朝から見舞いに行きたいというので、迷うことなく許可する。

「また明日ね、将輝!」

可愛い笑顔を見せてから、由紀は俺の病室を出ていった。

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