ボーダー
〈メイside〉
蓮太郎が、大事な婚約者が日本に旅立って5日が経った。
彼の祖父母がとても良くしてくれるから、蓮太郎がいない寂しさも、少し紛れた。
私は、プロポーズされた夜に名刺をくれた南さんという女性とたまに国内でランチやお茶をしながら会うこともある。
近いうちに、私と南さん、蓮太郎の3人で会いたいという話もしている。
いつになることやら。
そして、たまに蓮太郎の執事、武田さんとも連絡はとっている。
武田さんによると、まだ詳しい日程は詰めている最中であるが、蓮太郎が宝月グループを正式に継ぐこと、婚約者がいることを知らしめるために、会見を執り行う予定だという。
その会見に、私も同席してほしいというのだ。
その話し合いを近いうちにしたいから、機会を見つけて日本に来るように、チケット等も送られている。
蓮太郎には会いたいからいつでも良いのだが、彼に会うためだけに行くのも気が引ける。
どうせなら、観光でも何でもいいから何かを兼ねたい。
そう思っていたところだった。
こういう話は、突然舞い込んでくるのだ。
しかも、予想もし得ない方向から。
私と何度か法廷で戦った弁護士のジュリアが、せっかくだからと裁判所近くのカフェに誘ってきた。
普段はこういう誘いには乗らないのだが、たまに色恋沙汰にも話が及ぶこともある。
こういう時に蓮太郎の良いところを伝えられるから、たまにコーヒーで与太話をする。
私の自慢の婚約者なのだ、もう売約済みだと惚気ると、式には呼んでねと言われる。
一応、日本でやるつもりなんだけど。
普段は、割とすぐにそういう女同士の話に突入するのだが、今回は違った。
「今日はちょっと、お願いがあってね。
私の知り合いの弁護士が、心理学にめっぽう強いウィリアム&メアリー大学の顧問弁護士なんだ。
そこにチャレンジで入学予定の子がいるの。
だけど、その子は日本の高校で特例で卒業できるはずなんだけど、許可が降りないの。
ユキって子が気に入らないから、わざと許可しないんじゃないか、って話もあって。
明後日、あっちにある学校に、学長と一緒に直談判しよう、ってことになったんだけど、その知り合いが、急に胃腸風邪ひいちゃって。
お願い、明後日、代わりに行ってくれる?
日本の事情に詳しいでしょ?
婚約者さんも日本の人、って言ってたし。
ついでに会えるかもしれないでしょ?」
「いいの?私で。」
「何言ってるのよ!
冥だけよ、こんなこと頼めるの。
法廷では敵だけど、頭の回転は速いし、思慮深いし、行動力もあるし。
ちょっと、お父さんの影響受けすぎで鼻についたときもあったけどね。
最近は、冥独自の攻め方してて、バシバシ有罪にしてるし。
やっぱり、婚約者さんのおかげ?」
ジュリアは、普段はかわいこぶって天然を装っているが、意外に他人のことはしっかり見ており、些細な変化にも目ざとい。
「それもあるけど、珠美 由理さんっていう、カウンセラーさんに話聞いてもらったからかな?
それでいろんなことが吹っ切れたの。」
そう言うと、テーブルの向かいの彼女は目を見開いた。
「珠美、その名前だったわ。
さっき話した、チャレンジで入学する子!
なかなかの名門大学だから、しかもチャレンジなんて、めったにないんだから!
よっぽど優秀なのね、その子。」
そういえば、娘がいると言っていた。
あの母の娘だ、問題はないはずだ。
何より、助けてもらった恩を返さない私ではない。
「行くわ。
ジュリア、いい話をありがとう!
ちょうど、5日前に婚約者が日本に行ったところだったから、寂しかったの。
すごくラッキーな話よ。」
武田さんに、明後日の9時30分に日本に着くようにこちらを出発することをメールで告げる。
生理で体調が落ちている時期も超えて、動けるようにはなっている。
行くなら今だ。
日本に行くことは考えていたから、用意は早かった。
服は適当に選んだ。
その分、数セット気合いを入れた下着をスーツケースに詰める。
あとは、洗面用具をスーツケースに、アクセサリーケースは手荷物の黒いショルダーバッグに入れた。
用意を終えると、ソファーでふぅ、と息をついた。
蓮太郎が、大事な婚約者が日本に旅立って5日が経った。
彼の祖父母がとても良くしてくれるから、蓮太郎がいない寂しさも、少し紛れた。
私は、プロポーズされた夜に名刺をくれた南さんという女性とたまに国内でランチやお茶をしながら会うこともある。
近いうちに、私と南さん、蓮太郎の3人で会いたいという話もしている。
いつになることやら。
そして、たまに蓮太郎の執事、武田さんとも連絡はとっている。
武田さんによると、まだ詳しい日程は詰めている最中であるが、蓮太郎が宝月グループを正式に継ぐこと、婚約者がいることを知らしめるために、会見を執り行う予定だという。
その会見に、私も同席してほしいというのだ。
その話し合いを近いうちにしたいから、機会を見つけて日本に来るように、チケット等も送られている。
蓮太郎には会いたいからいつでも良いのだが、彼に会うためだけに行くのも気が引ける。
どうせなら、観光でも何でもいいから何かを兼ねたい。
そう思っていたところだった。
こういう話は、突然舞い込んでくるのだ。
しかも、予想もし得ない方向から。
私と何度か法廷で戦った弁護士のジュリアが、せっかくだからと裁判所近くのカフェに誘ってきた。
普段はこういう誘いには乗らないのだが、たまに色恋沙汰にも話が及ぶこともある。
こういう時に蓮太郎の良いところを伝えられるから、たまにコーヒーで与太話をする。
私の自慢の婚約者なのだ、もう売約済みだと惚気ると、式には呼んでねと言われる。
一応、日本でやるつもりなんだけど。
普段は、割とすぐにそういう女同士の話に突入するのだが、今回は違った。
「今日はちょっと、お願いがあってね。
私の知り合いの弁護士が、心理学にめっぽう強いウィリアム&メアリー大学の顧問弁護士なんだ。
そこにチャレンジで入学予定の子がいるの。
だけど、その子は日本の高校で特例で卒業できるはずなんだけど、許可が降りないの。
ユキって子が気に入らないから、わざと許可しないんじゃないか、って話もあって。
明後日、あっちにある学校に、学長と一緒に直談判しよう、ってことになったんだけど、その知り合いが、急に胃腸風邪ひいちゃって。
お願い、明後日、代わりに行ってくれる?
日本の事情に詳しいでしょ?
婚約者さんも日本の人、って言ってたし。
ついでに会えるかもしれないでしょ?」
「いいの?私で。」
「何言ってるのよ!
冥だけよ、こんなこと頼めるの。
法廷では敵だけど、頭の回転は速いし、思慮深いし、行動力もあるし。
ちょっと、お父さんの影響受けすぎで鼻についたときもあったけどね。
最近は、冥独自の攻め方してて、バシバシ有罪にしてるし。
やっぱり、婚約者さんのおかげ?」
ジュリアは、普段はかわいこぶって天然を装っているが、意外に他人のことはしっかり見ており、些細な変化にも目ざとい。
「それもあるけど、珠美 由理さんっていう、カウンセラーさんに話聞いてもらったからかな?
それでいろんなことが吹っ切れたの。」
そう言うと、テーブルの向かいの彼女は目を見開いた。
「珠美、その名前だったわ。
さっき話した、チャレンジで入学する子!
なかなかの名門大学だから、しかもチャレンジなんて、めったにないんだから!
よっぽど優秀なのね、その子。」
そういえば、娘がいると言っていた。
あの母の娘だ、問題はないはずだ。
何より、助けてもらった恩を返さない私ではない。
「行くわ。
ジュリア、いい話をありがとう!
ちょうど、5日前に婚約者が日本に行ったところだったから、寂しかったの。
すごくラッキーな話よ。」
武田さんに、明後日の9時30分に日本に着くようにこちらを出発することをメールで告げる。
生理で体調が落ちている時期も超えて、動けるようにはなっている。
行くなら今だ。
日本に行くことは考えていたから、用意は早かった。
服は適当に選んだ。
その分、数セット気合いを入れた下着をスーツケースに詰める。
あとは、洗面用具をスーツケースに、アクセサリーケースは手荷物の黒いショルダーバッグに入れた。
用意を終えると、ソファーでふぅ、と息をついた。