ボーダー
そこには、ドーム型球場何個分何だろう、と思うほどの敷地に、これでもかと広い建物に離れまであった。

図面はざっと20枚はあったし、実際のイメージも画像と動画で見た。
大浴場なんて、来客用と屋敷の人間用で別れていたし、シャワールームも4つはあった。

来客用の大浴場にいたっては、浴槽こそ1つだけだが、5、6人は入れそうなくらい広かった。
地下にはバーと、広いスタジオがある作りになっている。

2階には書斎として使うのだろうか、部屋が2つと、寝室があった。
しかもベッドのうち1つは天蓋付きベッドだ。

3階と4階には、ホテルかと見紛うくらい、部屋がたくさんある設計になっている。

志穂さんによると、近い将来か遠い将来かは分からないが、私と蓮太郎に子供が出来て、成長して今の私たちくらいになった頃を見据えた造りになっているという。
なるほど、気兼ねなくお友達を呼べるようにしてある、というわけか。

そこまで考えているなんてね。
恐れ入ったわ。

バスルームがある階には、湯あたりした場合に休めるよう、スーパー銭湯にあるようなラウンジまで2つ用意されていた。

1つは、女性専用にするようだ。

同じ階にはお風呂といえば卓球、という安易な理由で卓球場まで設計したようだ。
違う階には、カラオケボックスまであった。
何だか、いたれりつくせりね。
パンピーが入ったらここが日本だってこと、忘れそうね。

ガレージは、小さいもので車2台、広いものだと車5台とヘリ2機が入る設計になっていると聞いて、風邪は治ったはずなのに目眩がした。

「……いかがでしょうか。
実際に、お住まいになられる方の意見を伺いたいと、志穂様が申しておりましたので。」

ふむ、と思う。
設備的な問題はなさそうだ。

「サービス満載で、お客様にとっては楽しめる場所になりそうね。
アフタヌーンティーをお供にしてちょっとした歓談はできそうな広い庭もあるし。

気になるのは、家賃と維持費、ゼロがいくつつくのかしら。
それだけのお金、いくら蓮太郎の家が資産家であって、さらに柏木グループも不動産投資で利益は得てるにしても、きちんと動かしていけるのかしら?

そこの見通しが立たないと、これだけの豪邸にGOサインは出せないんじゃなくて?
あと、周囲の邸宅とはかなり離れた場所に建てないとね。
日照権でトラブルになって、下手をすると私たちが訴えられるわよ。
まぁ、そうなったら私に任せなさい。」

「さすが、無敗の現役検察官、目の付け所が違いますね。
その辺りは、詰めさせていただきます。」

「オレが気になるのはセキュリティーだ。
財産を根こそぎ持っていかれるわけには行かないからな。
それと、執事の教育面だ。
マトモな人材を今から育てないと、オレとメイの子作りに間に合わないぞ?
あと、伊達さん級に、そっち方面に詳しい人も人材として欲しい。
情報も立派な資産だからさ。」

言及したのはそれぞれ、私は建築に付随する法律やコスト面、蓮太郎は人材面。
それだけ、設備的には問題ないということなのだろう。

それにしても、蓮太郎の先程の子作りという言葉で身体がうずいて仕方がない。
さては確信犯か。

「お2人とも、設備的には異論はなく、コストや人材の方の構想を詰めた上で、建築に入らねばならないのでは、ということですね。
そのことは、柏木様に私の方からフィードバックさせていただきます。

こちらのお部屋に行く前に使った階段を上がっていただくと、すぐに見えるお部屋は比較的壁が分厚くなっております。
どのお部屋も音が漏れにくいようには設計されておりますが、そちらのほうが良いかと。」

そう言うと、ぺこり、と30度の角度で私たちに頭を下げた武田さん。

これは、もう話は終わりだから好きに過ごせ、ということなのだろうか。

言われた通りに、階段を上がる。
階段で目が回りそうだったが、階段を上りきった直後に蓮太郎の角張った手が、私のそれと絡むのが分かった。

手を繋ぐのなんて、こんな関係になってからもあまりなかったので、何だか嬉しい。
部屋に入るなり、照明もろくにつけないまま、強く抱き締められた。

「……会いたかった。メイ。」

その言葉が嬉しくて、私から蓮太郎の唇に私のそれを重ねた。

「それはもう、こういうことでいいんだよね?
メイ。」

耳元で言わないでほしい。
軽々と抱き上げられた身体は、ベッドに降ろされた。
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