ボーダー
朝の光にしては強い日差し。
そっか、ここ、日本じゃないんだ。
隣で眠っていたはずのハナがいなかった。
ふわぁ、とアクビを噛み殺しながら、洗面所から出てきたのは、さっき探していたはずの女、ハナその人だ。
「おはよ、ミツ。」
眠そうに、それでもコンタクトレンズが入っているためか、目を擦らずに返事をする。
着ていたのは、オレと色違いの例のパジャマ。
「あーあ、気付いちゃったか。
寝る前に渡して、ビックリする姿見たかったんだけどなぁ。
誰かさんが溜めに溜めてるから悪いんだよ?
いつかは、その溜めてるやつ、薄い膜越しじゃなくて直にほしいけどね?
いつになるんだろ。
それにしても、超似合うよ、ミツ!
もう、着替えないでこのまま朝ごはんの会場降りちゃう?
今の時間なら私達しかいない、って武田さんが言ってたよ!」
「ハナ?
朝から嬉しいことばっかり言わないの。
襲うよ?」
「えー、お腹すいたの、それは勘弁。」
仕方がない。
可愛い彼女のお願いは、聞くに限る。
朝ご飯を食べるために、エレベーターで1階に降りる。
「おはよ、お二人さん!」
「っていうか、さり気なくパジャマお揃いって何?
ラブラブすぎて妬けるんだけど!」
エレベーターに乗っていたのは、有海ちゃんと由紀ちゃんだ。
「早く結婚すればいいのに。」
「ちゃんと社会人として安定するまで結婚はしない、って真面目な2人だから、そう決めてるんだろ。
俺とか奈斗とは違ってさ。」
もちろん、この2人がいるということは、奈斗と将輝もいるのだ。
一様に有海ちゃんも由紀も、腰やら脚を擦っている。
何回、それぞれの彼女を抱いたのやら。
有海ちゃんと奈斗は分かる。離れるのだから。
将輝が由紀ちゃんを抱く意味がわからない。
お前ら、一緒の家に住んでるだろ。
「こういう豪華なとこ来ると、いつもと違うシチュエーションで抱きたくなるの。
コイツ、語学学校に通ってる上に9月から大学、こともあろうに実際に由紀の母親だったり、遠藤さんのところで研究手伝ってた実績がインターンシップに認められるらしい。
単位の取得具合によっては2年か長くて3年で大学卒業して、大学院に行けるかもなんだよ。
勉強で忙しい由紀の邪魔は極力したくないからさ。
何かのハプニングでデキちゃったら、それこそ大変だし。
将来有望な由紀の夢を、俺が潰すことだけは避けたいの。」
「もう!」
そう言われた由紀ちゃんは、顔を真っ赤にしていた。
これはオレの推測だが、そこまで彼女自身が頑張れるのは、ゆくゆくは将輝とそういうことになっても構わない、という気持ちの表れではないのか。
エレベーターが目的階に着くと、すでに朝食会場のレストランには、レンとメイちゃん、矢榛に、オレの高校の同級生たちがいた。
「おはよー!」
朝の挨拶もそこそこに、ある相談をするため、オレはメイちゃんと少し離れた隙を狙って、レンを会場の外に連れ出す。
オレから折り入って相談を持ちかけられたレンは、何だ、そんなことかと言わんばかりに笑みを浮かべる。
「任せとけ。
オレは、受けた恩を返さないほど薄情な人間じゃない。
その約束、何年先になったとしても、ちゃんと覚えておくからな。」
さすがは幼なじみとしてずっと一緒にいただけのことはある。
オレの考えは読めていたらしい。
朝食を終えたあと、1度ホテルから外出し、オレの高校の同級生たちと有海ちゃんを空港から見送った。
その後、村西さんと遠藤さんに食事を奢ってもらったり、観光したり、いろいろな名所を案内してもらったりして、2人で帰りの飛行機に乗った。
レンは、夏休みが終わる頃には戻るという。
夏休みの間中、婚約者と一緒にいるつもりか。
成田空港で、引いていたキャリーバッグを、帰る旨を伝えていた柏木さんの車のトランクに入れる。
家まで送ってもらう道すがら、柏木さんも、レンとメイちゃんが同席する日米同時中継会見に同席することになったことを聞く。
ときにはアメリカとビデオ通話をしたりして、挙式準備と仕事との3足のわらじで、頑張っているようだ。
もしかして、レンがアメリカに残るのは、そのためもあったのか。
協力くらい、申し出ればよかったかな。
「要らないと思うよ、協力。
柏木さんもいるんだし。
いくら幼なじみでも、私たちは所詮他人だからさ。
そういう家の事情に変に他人が介入するとこじれる場合もあるし。
私たちにできるのは、大事な幼なじみとその婚約者を見守ること、でしょ?」
ハナはいいことを言う。
さすが、オレが選んだ女だ。
それからの日々は、夏休みの課題をしたり、ブライズメイド、アッシャーとしての話し合いをしたりで過ぎていった。
そして、夏休みがあと2日で終わる頃。
平日金曜日の夕方。
エージェントルームのモニターにレンとメイちゃん、柏木さんが映し出された。
その様子を、オレとハナが食い入るように見つめる。
臨月となり、かなりお腹が大きくなっている、明日香さんと、その旦那の伊達さん。
彼らも、ソファーに座りながら固唾を飲んで見守っている。
そっか、ここ、日本じゃないんだ。
隣で眠っていたはずのハナがいなかった。
ふわぁ、とアクビを噛み殺しながら、洗面所から出てきたのは、さっき探していたはずの女、ハナその人だ。
「おはよ、ミツ。」
眠そうに、それでもコンタクトレンズが入っているためか、目を擦らずに返事をする。
着ていたのは、オレと色違いの例のパジャマ。
「あーあ、気付いちゃったか。
寝る前に渡して、ビックリする姿見たかったんだけどなぁ。
誰かさんが溜めに溜めてるから悪いんだよ?
いつかは、その溜めてるやつ、薄い膜越しじゃなくて直にほしいけどね?
いつになるんだろ。
それにしても、超似合うよ、ミツ!
もう、着替えないでこのまま朝ごはんの会場降りちゃう?
今の時間なら私達しかいない、って武田さんが言ってたよ!」
「ハナ?
朝から嬉しいことばっかり言わないの。
襲うよ?」
「えー、お腹すいたの、それは勘弁。」
仕方がない。
可愛い彼女のお願いは、聞くに限る。
朝ご飯を食べるために、エレベーターで1階に降りる。
「おはよ、お二人さん!」
「っていうか、さり気なくパジャマお揃いって何?
ラブラブすぎて妬けるんだけど!」
エレベーターに乗っていたのは、有海ちゃんと由紀ちゃんだ。
「早く結婚すればいいのに。」
「ちゃんと社会人として安定するまで結婚はしない、って真面目な2人だから、そう決めてるんだろ。
俺とか奈斗とは違ってさ。」
もちろん、この2人がいるということは、奈斗と将輝もいるのだ。
一様に有海ちゃんも由紀も、腰やら脚を擦っている。
何回、それぞれの彼女を抱いたのやら。
有海ちゃんと奈斗は分かる。離れるのだから。
将輝が由紀ちゃんを抱く意味がわからない。
お前ら、一緒の家に住んでるだろ。
「こういう豪華なとこ来ると、いつもと違うシチュエーションで抱きたくなるの。
コイツ、語学学校に通ってる上に9月から大学、こともあろうに実際に由紀の母親だったり、遠藤さんのところで研究手伝ってた実績がインターンシップに認められるらしい。
単位の取得具合によっては2年か長くて3年で大学卒業して、大学院に行けるかもなんだよ。
勉強で忙しい由紀の邪魔は極力したくないからさ。
何かのハプニングでデキちゃったら、それこそ大変だし。
将来有望な由紀の夢を、俺が潰すことだけは避けたいの。」
「もう!」
そう言われた由紀ちゃんは、顔を真っ赤にしていた。
これはオレの推測だが、そこまで彼女自身が頑張れるのは、ゆくゆくは将輝とそういうことになっても構わない、という気持ちの表れではないのか。
エレベーターが目的階に着くと、すでに朝食会場のレストランには、レンとメイちゃん、矢榛に、オレの高校の同級生たちがいた。
「おはよー!」
朝の挨拶もそこそこに、ある相談をするため、オレはメイちゃんと少し離れた隙を狙って、レンを会場の外に連れ出す。
オレから折り入って相談を持ちかけられたレンは、何だ、そんなことかと言わんばかりに笑みを浮かべる。
「任せとけ。
オレは、受けた恩を返さないほど薄情な人間じゃない。
その約束、何年先になったとしても、ちゃんと覚えておくからな。」
さすがは幼なじみとしてずっと一緒にいただけのことはある。
オレの考えは読めていたらしい。
朝食を終えたあと、1度ホテルから外出し、オレの高校の同級生たちと有海ちゃんを空港から見送った。
その後、村西さんと遠藤さんに食事を奢ってもらったり、観光したり、いろいろな名所を案内してもらったりして、2人で帰りの飛行機に乗った。
レンは、夏休みが終わる頃には戻るという。
夏休みの間中、婚約者と一緒にいるつもりか。
成田空港で、引いていたキャリーバッグを、帰る旨を伝えていた柏木さんの車のトランクに入れる。
家まで送ってもらう道すがら、柏木さんも、レンとメイちゃんが同席する日米同時中継会見に同席することになったことを聞く。
ときにはアメリカとビデオ通話をしたりして、挙式準備と仕事との3足のわらじで、頑張っているようだ。
もしかして、レンがアメリカに残るのは、そのためもあったのか。
協力くらい、申し出ればよかったかな。
「要らないと思うよ、協力。
柏木さんもいるんだし。
いくら幼なじみでも、私たちは所詮他人だからさ。
そういう家の事情に変に他人が介入するとこじれる場合もあるし。
私たちにできるのは、大事な幼なじみとその婚約者を見守ること、でしょ?」
ハナはいいことを言う。
さすが、オレが選んだ女だ。
それからの日々は、夏休みの課題をしたり、ブライズメイド、アッシャーとしての話し合いをしたりで過ぎていった。
そして、夏休みがあと2日で終わる頃。
平日金曜日の夕方。
エージェントルームのモニターにレンとメイちゃん、柏木さんが映し出された。
その様子を、オレとハナが食い入るように見つめる。
臨月となり、かなりお腹が大きくなっている、明日香さんと、その旦那の伊達さん。
彼らも、ソファーに座りながら固唾を飲んで見守っている。