ボーダー
文化祭が終わり、中間テストに向けて皆勉強している最中、公民の授業の一環で模擬裁判を校内で行うこととなった。
女子高生に痴漢をした加害者Aを見過ごせず、男性Bが駅員室に行くよう説得したところ抵抗されて、カッターナイフで脅してきた。
思わず背中を押したところ、階段から加害者Aが落ちてしまい、意識不明の重体。
男性Bが過失致死傷容疑で逮捕された。
彼は有罪か無罪のどちらなのか?というものだった。
こんな感じのシナリオを元に模擬裁判をするのだ。
来年から裁判員制度が裁判に導入されるので、その練習も兼ねているらしい。
検察官役は、兄が同じ職業であるミツが務めることとなった。
被告人役もいいかな、とレンが立候補し、弁護士役はミツ直々のご指名で私になった。
「シナリオが用意されてるとはいえ、オレにきちんとたじろぐことなく、反論できるやつなんか、ハナ以外にいない。
弁護士もレクチャーしてくれるし、特別ゲストも呼んであるから、きっと力を貸してくれる。何より、恋人のオレが向かいにいるんだ。
自信を持って、お前なりの弁護士を演じればいい。」
よし、やるよ!
前々日からのリハーサル、そして本番当日に、見知った顔も姿を見せた。
なぜか、この学校の制服を着ていて、ピアスも外していた。
「制服なんて好きじゃないし、日本式の教育も好きじゃないんだけどね。
宝月グループ当主の妻としてこっちで暮らすんだもの。
少しは、こっちのことも知らないとね。
なんだか面白そうなものをやってるから、留学手続きが早く済んだこともあって覗きに来たのよ。」
そう話すのは、無敗の現役検察官、メイちゃんだ。
レンの婚約者でもある。
この学校の制服、似合うなぁ。
レン本人は、来ることを知らなかったのか、口をあんぐりさせていたが。
「まぁ、演技だとしても、私の婚約者が人なんか殺せるわけがないのだけれど。
あっさり被告人役に立候補なんてして。
まったく、困った人ね、蓮太郎。」
被告人役のレンが、弁護士役の私と、検察官役のミツの質問に答えていく。
ミツはあくまで冷静に、淡々とロジックを組み立てて、被告人であるレンを追い詰める。
一片でもいい。
場の空気に飲まれてしまって、私はほとんど発言できないでいた。
メイちゃんが、私のブレザーのポケットにそっと六法全書をコピーしたであろう紙と、もう1枚の紙をブレザーのポケットに入れて渡してくれた。
それには、こう書かれていた。
『急迫不正の侵害に対して、自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は罰しない。
防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減刑し、又は免除することができる』
また、もう1枚の紙には、私やミツ、レン、メイちゃんが産まれる年の2年前の1987年に、今回と同じような状況で正当防衛が認められた判例が事細かに書かれていた。
この条文を読み上げる。
「今回の被告人の行為は、この正当防衛に関しての条文に照らして、記載されている行為に当てはまると考えます。
よって、弁護側は正当防衛による無罪を主張します。
さらに、実際、1987年に、本件と同じような状況で正当防衛が認められる判決が出されております。
実際、被告人もカッターナイフで脅してきた被害者に対して、ここでこの人をなんとかしないと自分の身が危険だ、と思ったというのは被告人質問で明らかにしました。
以上です、裁判官。」
これを私が言ったところで、司会の女子生徒が時間がおしているから、判決をくだすように裁判官役の生徒に指示をした。
「本法廷は、弁護側の意見を採用し、被告人、宝月蓮太郎を無罪と認める!」
サポート役の弁護士と、特別ゲストのメイちゃんが講評を述べた。
思わぬタイミングで婚約者に会えたレンは、柱の影で婚約者とイチャついて、彼女を甘やかしていた。
「婚約者である蓮太郎と一緒にいたくてね。
来たわ。
ついでに、こちらに来年の3月まで留学もさせてくれるの。
こっちにいたほうが、ブライズメイドとアッシャーの相談もしやすいしね。」
「婚約者の前で可愛いこと言うなよな?
夜寝かせないよ?
メイに着せたいものもあるしね?」
……今回の模擬裁判を通じて弁護士になるの、ちょっとだけいいかも、と思ったりもした。
女子高生に痴漢をした加害者Aを見過ごせず、男性Bが駅員室に行くよう説得したところ抵抗されて、カッターナイフで脅してきた。
思わず背中を押したところ、階段から加害者Aが落ちてしまい、意識不明の重体。
男性Bが過失致死傷容疑で逮捕された。
彼は有罪か無罪のどちらなのか?というものだった。
こんな感じのシナリオを元に模擬裁判をするのだ。
来年から裁判員制度が裁判に導入されるので、その練習も兼ねているらしい。
検察官役は、兄が同じ職業であるミツが務めることとなった。
被告人役もいいかな、とレンが立候補し、弁護士役はミツ直々のご指名で私になった。
「シナリオが用意されてるとはいえ、オレにきちんとたじろぐことなく、反論できるやつなんか、ハナ以外にいない。
弁護士もレクチャーしてくれるし、特別ゲストも呼んであるから、きっと力を貸してくれる。何より、恋人のオレが向かいにいるんだ。
自信を持って、お前なりの弁護士を演じればいい。」
よし、やるよ!
前々日からのリハーサル、そして本番当日に、見知った顔も姿を見せた。
なぜか、この学校の制服を着ていて、ピアスも外していた。
「制服なんて好きじゃないし、日本式の教育も好きじゃないんだけどね。
宝月グループ当主の妻としてこっちで暮らすんだもの。
少しは、こっちのことも知らないとね。
なんだか面白そうなものをやってるから、留学手続きが早く済んだこともあって覗きに来たのよ。」
そう話すのは、無敗の現役検察官、メイちゃんだ。
レンの婚約者でもある。
この学校の制服、似合うなぁ。
レン本人は、来ることを知らなかったのか、口をあんぐりさせていたが。
「まぁ、演技だとしても、私の婚約者が人なんか殺せるわけがないのだけれど。
あっさり被告人役に立候補なんてして。
まったく、困った人ね、蓮太郎。」
被告人役のレンが、弁護士役の私と、検察官役のミツの質問に答えていく。
ミツはあくまで冷静に、淡々とロジックを組み立てて、被告人であるレンを追い詰める。
一片でもいい。
場の空気に飲まれてしまって、私はほとんど発言できないでいた。
メイちゃんが、私のブレザーのポケットにそっと六法全書をコピーしたであろう紙と、もう1枚の紙をブレザーのポケットに入れて渡してくれた。
それには、こう書かれていた。
『急迫不正の侵害に対して、自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は罰しない。
防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減刑し、又は免除することができる』
また、もう1枚の紙には、私やミツ、レン、メイちゃんが産まれる年の2年前の1987年に、今回と同じような状況で正当防衛が認められた判例が事細かに書かれていた。
この条文を読み上げる。
「今回の被告人の行為は、この正当防衛に関しての条文に照らして、記載されている行為に当てはまると考えます。
よって、弁護側は正当防衛による無罪を主張します。
さらに、実際、1987年に、本件と同じような状況で正当防衛が認められる判決が出されております。
実際、被告人もカッターナイフで脅してきた被害者に対して、ここでこの人をなんとかしないと自分の身が危険だ、と思ったというのは被告人質問で明らかにしました。
以上です、裁判官。」
これを私が言ったところで、司会の女子生徒が時間がおしているから、判決をくだすように裁判官役の生徒に指示をした。
「本法廷は、弁護側の意見を採用し、被告人、宝月蓮太郎を無罪と認める!」
サポート役の弁護士と、特別ゲストのメイちゃんが講評を述べた。
思わぬタイミングで婚約者に会えたレンは、柱の影で婚約者とイチャついて、彼女を甘やかしていた。
「婚約者である蓮太郎と一緒にいたくてね。
来たわ。
ついでに、こちらに来年の3月まで留学もさせてくれるの。
こっちにいたほうが、ブライズメイドとアッシャーの相談もしやすいしね。」
「婚約者の前で可愛いこと言うなよな?
夜寝かせないよ?
メイに着せたいものもあるしね?」
……今回の模擬裁判を通じて弁護士になるの、ちょっとだけいいかも、と思ったりもした。