ボーダー
エレベーターに乗り込もうとしたとき、急に背後から頭を殴られた。

「ハナ?

しまっ……」

目が覚めると、見知らぬ部屋にいて、両手足を縛られていた。

私は、腕をもぞもぞと動かして、するりと縄を抜け、自分の手首を確かめながらさすった。

誘拐対策の縄抜けだ。
レンに昔習ったことがある。

その手で足のロープをほどいていると、ミツが目を覚ました。

彼はスタンガンを当てられたようだ。

「ミツ、大丈夫?
もう、何がどうなったのか分かんない。」

「あ?
なんでハナとミツがいるんだよ。」

「あれ?
レン?」

ミツが縛られた柱の裏には、レンが両手足を縛られていた。

「チッ、スタンガン当てられちゃあ、さすがに向こうで習った合気道やら柔道やらの技使えねぇ。
ミツ、お前もそうだろ?

盗まれたパスポートやら、財布やらに盗音機version.2をつけた。
それを追ったらここだったんだ。

ああ、ちなみにversion2.はGPSと発信機、盗聴器に、高性能ビデオ録画機能がついてるんだけど。
ちなみに、これでもまだ試作品らしい。」

伊達さん、いつの間にそんなの作ってたの?

「ああ。
世界でいちばん大事な恋人を守れないなんて、一生の不覚だ。」

もう、ミツったら!
照れること、今言ってる場合?

部屋の外に、見張りがいた。
いるのは2人。

ソイツらは、レンが魔法で倒した。
一部分だけ床を凍らせる魔法と、落とし穴を作る魔法だ。

「レン!」

レンの身体がフラついた。

「レン!
レンも、限界なの?
魔力……」

「不甲斐ないが、どうやらそうらしい。
誰かを守るために使うのが魔法の力だ、って、他ならぬお前から教わったのにな、ハナ。

守りたい婚約者もいる、ってのに。
情けねぇ。」

レンの身体を支えながら、出口へ向かう。

落とし穴から這い上がって来たらしい体格のいい男が、私たちに気付いて、スタンガンを向けていた。

足がすくんで動けない。

男の身体は宙に浮いて、床に倒れていた。

「6秒あれば十分。
あっちでアクターズスクールの先生にアクションの腕褒められて、ジークンドー教わってるからね。

蓮太郎に優作、蒲田も大丈夫か?

アッシャーとして、新郎に怪我させたらたまんねぇしな。
早く行け。

村西さんと遠藤さんを探せば、盗まれたものを取り返して出られるから。」

私たちを助けてくれたのは、奈斗だった。

更正、うまくいってるんだな。

そう思わせてくれるほどには、優しかった。

この優しさが、本当の奈斗なんだ。
こういうところに、有海は惚れたのか。

1階に降りて、覆面マスクの2人組を発見した。

護身術と柔道の技をかけようとする幼なじみ2人を止める。

「村西さんと遠藤さんだよ。

お久しぶりです!
そして、ありがとうございました!」

「よく分かったな。
オレたちだと。

私たちのすぐ後に、奈斗も来た。

「ホントは、将輝にも来てほしかったが、彼の大事な彼女さんを泣かせると後が大変だから、止めたよ。」

村西さんと遠藤さんが、私たちをホテルまで送ってくれた。
ホテルの入り口で、盗まれたパスポートやらを風紀委員の顧問の先生に返していた2人。

私がいつも首に下げている指輪も返ってきた。

「ありがとうございます!」

「パスポートとかを盗んで不正入国を企んでいたんだろ。
そのために、売れば金になりそうなものは全て盗ったみたいだな。
パスポートは個人情報の塊だ。

ダークウェブに情報が流される前に、取り戻せてよかった。
犯罪の温床になりかねんからな。

アッシャーとブライズメイドの皆さんは早く寝ろよー?
来年に挙式する新郎新婦には話があるから、借りる。」

村西さんと遠藤さんは、予め連絡してロビーで待っていたメイちゃんに話しかけた後、レンと彼女を連れ立って廊下を歩いて行った。
< 266 / 360 >

この作品をシェア

pagetop