ボーダー
「ん……」

朝の光で起きると、隣でミツが寝ていた。

……起きなきゃ。

彼を起こさないようにベッドから出て、顔を洗ってから新しい下着と制服を着る。

ベッドから出たときにチラ、と見えたが、ミツはパンイチだった。

んも。
昨日さんざんイチャイチャしたくせに。
じんわりと腰が痛いのと、胸元に刻まれた赤い痕が、その証拠だ。

アクビを噛み殺しながら、昨日の残りのクリームシチューを温める。
その間に、悪いと思いながら勝手に開けた冷凍庫に残っていた食パンを解凍して、トーストを焼いた。

眠くても目は擦れないのが辛いところ。
ソフトコンタクトレンズを入れてしまっていたから。

「ん、おはよ、ハナ。」

制服を着たミツがリビングに降りてきた。

「お、ハナが作ったの?
マジでいい奥さんになれるよ。
まぁ、まだ結婚は出来ないけど。

結婚したらこんな感じなんだろうな、って想像つくわ。」

ちゅ、とおはようのキスをくれる。

「授業は怠いけど、ハナの作った朝ごはんがあれば頑張れるわ。
ありがとな。」

先にミツの家を出た私は、私の家の自転車を取りに行った。
その道すがら、ミツの曲がっているネクタイを直したのを思い出して、赤面した。

私ったら、あんなことして……!
本当に夫婦みたいじゃん……!

まぁ、学校の駐輪場に自転車を停めたら自然に手が絡むから、周囲の人間にラブラブ夫婦などと余計な冷やかしを受けるのも事実なんだけどね。

その日の、部活帰り。
いつもの場所で、と彼には告げてある。

「私ね、将来……弁護士になろう、って決めた。
だから……ミツと同じ大学行く!
指定校推薦、受けることにする!」

「そっか……
お前が弁護士か。

ハナが、そう決めたならオレは応援するよ。
昨日も、可愛くて色っぽい声聞く前にそう言ったろ?

どんな道を選んでも、ハナ自身が悩んで悩み抜いて決めたことなら、応援するし。
いくらでも背中は押す、って。」

「さすが、幼少期から私をずっと見てきたミツに言われると、嬉しい。
ありがとう。

お互い、頑張ろう!」

夏休み終わりから、文化祭の合唱発表と並行して、小論文対策や面接対策を行った。

文化祭終わりに、お疲れ様会をいつものメンバーを集めて開催した。
場所は、武田さんが手配してくれた、レンの別荘だ。

こんなにハメを外せるのは最後、と深夜まではしゃいだのだが、なんと友佳がその時間から参加した。

「友佳、大丈夫?
疲れてない?」

何だか久しぶりに友佳を見た気がする。
少し身体の線が細くなったような感じも見て取れる。

「バスケ部はとうに引退したからねー。
ダメだね、運動部引退すると身体なまっちゃって。」

話を聞くと、彼氏の一成くんとも、学校以外で会ったのはこの会が久しぶりらしい。

そっか、大変だねと適当な相槌を打ちながら、ある疑惑を持っていた。

お疲れ様会の翌日、武田さんを呼んで、彼への言伝てを頼んだ。

「かしこまりました。
その領域は私が担当いたします。
調査結果は1日お待ちを。」

「お願いします。」

これはあくまで推測だが、友佳の家は、特に父親が過保護らしい。

バイトにしては帰りが遅かったじゃないかなどと詰られるのもしょっちゅうのようだ。

もしかしたら、友佳が父親から虐待を受けている可能性も無きにしもあらずかもしれない。

そのことは、ミツにも話した。

「概ねオレも同意見だ。
それについては、資料待ちだな。
明日、文化祭の振替休日だろ?
いつもの場所で。

ハナは早く寝ろよ?おやすみ。」

ちゅ、と軽いキスをして、私を女子用の寝室部屋になっている場所まで送ってくれた。
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