ボーダー
「話は聞いたぜ。
ハナは、同性だからこそできることを頼むぞ。
まだロビーのソファーにいるはずだ。
……泣きそうな顔をしながらな。

オレは、あのバカの介抱を手伝う。」

御劔くんまで来てくれたので、私も彼女のフォローに回ることにする。

もちろん、私の鞄に子授けのお守りはしのばせて。

御劔くんの言うとおり、ロビーのソファーで化粧が崩れるくらい泣いている彼女の前に、例の彼が買ってきた品物を差し出す。

「……ロクに検査もしないまま、そうやっていつまでもメソメソ、ウジウジしてるつもりじゃないでしょうね?

貴女の旦那が軽い熱中症になってまで、この安産にご利益のあるお守りを買ってきてくれたっていうのに。

彼の頑張りを、無駄にする気かしら?」

「……一成が……これを?」

「タクシーの領収書まで出てきたわ。
これで往復行ったのね。

結構な出費でしょうに。
これで持ってきた分のお金使い果たして、飲み物もロクに買えなかった、ってところかしら。

貴方の旦那、後先考えずに行動するタイプね。
そういうところに惚れたんでしょうけど。」

「メイちゃん……私……」

「ここで話してても埒あかないよ?
私の部屋行こうか!」

ストロベリー柄のキャミソールワンピースに着替えたハナちゃんが、私たちを迎えに来てくれた。

場所を、ハナちゃんの部屋に移して、話を続ける。

「私、検査してみる。
……一成が元気になったら。

ちゃんと、確かめたい。」

……お腹にそっと手を当てる彼女。

「……そうするといいわ。
先越されるのは、ちょっと悔しいけれど。」

ハナちゃんに、菜々美ちゃんの連絡先を聞く。

「あの子ったら、安産にご利益のある神社にグラビア撮影で行ったから、って私と蓮太郎にこんなものを。

子授けのお守りで、子沢山のネズミをあしらってあるそうなの。

そこまで知ってて、きっと行ってくれたのね。
彼女にお礼を言いたいから、連絡先を教えてくれるかしら?」

ハナちゃんはにっこり笑って、親指と人差し指で丸を作ってくれた。

友佳ちゃんの旦那は、近くの病院で少し点滴をしてもらったら、回復したようで、ホテルに戻ってきた。

足取りもしっかりしていて、一安心だ。

「ありがと。
ウチの一成が、迷惑かけました。」

部屋に入るなり、ペコリと頭を下げたのは友佳ちゃんだ。

「別にいいのよ。」

「……友佳、憑き物が落ちたみたいな晴れやかな顔してる。

……もしかして、さ。」

ハナちゃんの耳打ちに、はにかんだように微笑んで、先ほどのように、そっとお腹に手をやる彼女。

「……ごめんね?メイちゃん。
先越しちゃった。

一足先に、母親だ。

ちゃんとしなきゃ。」

よく、旦那が私にそうするように、見よう見まねで、彼女の頭を撫でる。

ハナちゃんの部屋に麻紀ちゃんまで入ってきていて、皆で友佳を祝福した。

「別に、先越された、なんて思ってないわ。
私の近い将来を見てるみたい。

楽しみだわ、私も。」

彼女たち黒沢夫婦には、私の部屋の客室露天風呂を使うように勧めた。
そのほうが、時間を気にせず、湯あたりも気にせず入浴できるだろう。

私たちは、今日行った美ら海水族館やパイナップルパークでのことを麻紀ちゃんに話しつつ、ハナちゃんや麻紀ちゃんに尋問を受けていた。

「深夜までラブラブだったみたいね?
深夜、というか今日の朝からか。

レンはね、有り余ってるからねー。
第一子妊娠の報告が、友佳だけじゃなくてメイちゃんから聞けるのももうすぐかな?」

ハナちゃんってば……

「私、南 亜子さんには伝えたよ、友佳のこと。
当日、なるべく座って出来るのをお任せするように言っておいた。」

麻紀ちゃんとやらも、いい子だ。
一見するとおしとやかで、オドオドしがちな子に見えるが、きちんと自分のやれることを自ら探して動ける子だ。

お風呂に入って部屋に戻ると、一成くんと友佳ちゃんがいた。

「その節は、ご迷惑をお掛けしました!
お風呂、使わせてくださってありがとうございました!
いいお湯でした。」

「いいのよ。
いろいろキツいこと言っちゃって、ごめんなさいね?」

「とんでもないです。
まだまだ、至らない点ばかりですが、これからもよろしくお願いします。」

「……ただ奥さんの隣でオロオロしてるより、一人でなんとか奥さんのためにお守りを買いに行く、愛情は伝わったと思うわよ。」

黒沢夫婦と入れ違いになるように、私の旦那が帰ってきた。

「超いいお湯だったわ。
明日の朝も入るかな。

……ん?これ、ナナちゃんがくれたやつ?」

お守りにチラ、と目をやって微笑むと、私を壁に追い詰めて、深くキスをする。

「……夕ごはん終わったら、予約な?
このお守りにあやかっちゃおうか。」

もう、蓮太郎ったら。

私も回数をこなせるのは嬉しいので、返事の代わりに強く彼を抱きしめた。
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