ボーダー
「奈斗。
起きな?
朝だよ……?」

痺れるような刺激に、目が覚めた。
確実に、婚約者の仕業だ。

オレが快感に顔を歪めるのを、ニコニコと微笑みながら見ている。

「なぁに?
朝からナニしてくれようとしてるのかな?
エッチな婚約者さんは。」

「起きないから、起こしてあげようかな、って思ったんだけど、ダメだった?」

散々、有海の甘い声を聞いた後、何かあっては困ると下着だけは履いて寝た。
それは覚えている。
その布を剥ぎ取ったのは、婚約者か。

「えー、だって、反応しないんだもん。」

不服そうに、むぅ、とむくれる有海。
子供みたいで可愛い。

「そりゃ、ね?
出しきったから、空っぽだもん。
いくら婚約者さんが可愛いことしてくれても、しばらく反応しないと思う。」

バチェラーパーティーの日、奥さんを孕ませる宣言をした蓮太郎。
しばらく使うことはないだろうし、余っているから、と箱ごと貰ったのだ。
たんまり入った新品を貰ったのだが、半分ほど使い切ってしまった。

「蓮太郎から貰ったやつ、半分使い切ったからね。
そりゃ、空っぽにもなるよ。
それだけ、婚約者さんが可愛かったから。
昨日ので離れてもしばらく、処理するには困らなそうで、オレも満足。」

「うん。
それなら良かった。
身体は痛いけど、奈斗が満足したならそれでいいや。

少なくとも、処理するなら私だけを思い浮かべてはくれそうだし。」

「当たり前だろ。
婚約者以外、抱きたいと思わないし。」

婚約者の身体を抱きしめて、深く口付けると、そのままベッドに倒れ込んだ。

よいしよ、と言ってオレの隣に寝転んだ有海。

腕枕はオレがしてやる。

有海の肩も腕も指も、大事な商売道具だ。
何かあってはいけない。
彼女の手を取って、昨夜指輪を嵌めた指を優しく撫でた。

「この指で、ピアノの鍵盤叩いてるんだもんなぁ……
しかも暗譜で。

オレ、なぜかピアニスト役のオファー来て、それの練習ついでに、昨日の曲弾いて。
指導も受けてるんだけど、全然ダメで。

有海、すげーな、って尊敬してる。

「だからなのね。
いつの間に練習してたの?
って思ったもの。
でも、あれだけ弾ければすごいわ。
十分よ。
ピアノなんて、ロクに弾いたことないレベルだったんでしょ?

ちょっと左手の動きがたどたどしかったことはあったから、運指をちょっとやれば、それっぽく見えるわ。

任せて。

今度教える。

そうすれば、近い距離で一緒にいられるし、ご褒美もあげられるしね?」

「有海先生、よろしく。」

どちらからともなく唇を重ねる。

そこに、甘い空気を邪魔するノックの音が響いた。
シャツだけ羽織って、外に出る。

有海は黄色のブラウスと、白の花柄スカートを履いている。

セーフだ。

有海の裸に近い姿を、例え親友でも、他の男になぞ見せたくない。

「おはよ。
奈斗、ちゃんと起きてるか?
眠そうな顔して。
程々に、って言ったろ。
……朝ご飯、用意してあるってよ。

オレとメイは病院の帰りにブランチにする予定だから大丈夫。

一番遅いのがお前らだぞ。

黒沢夫妻と将輝、由紀ちゃんのカップルは、もう武田が送って、そろそろここに戻るって言うから。」

「悪いな、蓮太郎。」

「気にするな。
恋人から婚約者にグレードアップさせた日、ってそういうもんなんだよな。
オレは、翌日飛行機乗る予定だったから我慢できたけど。
そうじゃなかったら、1箱使い切るくらいはしてたはずだな、オレたちも。」

さらっと言うが、コイツの欲の強さは異常だからな。
依存症と診断されないのが不思議なくらいだ。

普通は朝のオレがそうだったが、出しきった後は反応しない。
だがコイツの場合、出しきっても、ちゃんと翌朝には反応するのだ。

「ノロケはそれくらいにしろ?
あー、楽しみにしとけよ、そろそろ家に届くはずだ。
ウィッシュリストにあった品物。」

それだけ蓮太郎に言うと、可愛い婚約者と共にリビングに行くため、部屋に引っ込んだ。
着替えなくては。

適当なポロシャツにジーンズ、カーディガンを羽織って、有海と共にリビングに降りた。

丁寧にラップをしてあったスクランブルエッグとトースト、野菜スープを平らげると、ちょうどリビングに武田さんが来た。

「おや、おはようございます。
帳さま、一木さま。
昨日の演奏、お見事でございました。」

「ありがとうございます。」

ぺこ、と一礼して、部屋に戻る有海。
女子はいろいろ支度があるからな。

「ときに、奈斗さま。
日本で婚約者さまと同棲なさるのでしたら、お試し同棲サービスというものもございます。
それをしながら、実際の物件を探されてはいかがでしょう。

いくつか売りに出されている物件も増えているようですし、そこから探す方が賢明かと。

オススメがありましたら、柏木 康一郎さまづてでレコメンドをすることもできます。」

何でも、初月お金を払うだけで、1ヶ月同棲が出来るというサービスらしい。

そんなものがあるのか。
有海と検討してみる、と言うと、お試し同棲サービスのチラシをポロシャツのポケットに入れてくれた。

「あと20分後に、別荘の入口でお会いしましょう。」

武田さんはそう言って、ダイニングを出ていった。

部屋に入ると、有海の髪は内側に巻かれていてツインテールにされていた。

軽く口付けしたかったが、せっかく仕上げたメイクが崩れると怒られると思ったので、抱き寄せるだけにした。

オレも鞄に荷物を詰めて、部屋を出た。

送り先を、有海の家ではなく、賢正学園にしてもらう。
それには、もちろん理由がある。
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