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それから、ご褒美タイム、として彼女がオレを満足させてくれた。
そのため、いつもより復活が早かった。
もう一度彼女の熱さを味わうことができたのは嬉しい限りだ。

「寝てていいよ。
キツかったろ。」

ふるふると何度も首を横に振るオレの可愛い婚約者。

「久しぶりだもん、これくらいじゃなきゃ物足りない。
奈斗にもそう思ってもらいたいから、勉強したんだもん。」

「だからなのか。
超良かった。

薄いの取って有海と繋がってたい、って思うくらいには。
いつの間に婚約者を甘やかすテク覚えたの?」

彼女がそう言ってくれたのも、オレのを刺激するテクを覚えてくれたのも、嬉しい。

ピアニスト役を皮切りに、俳優としてのオファーは増えるだろう。
俳優仲間である将輝や蓮太郎、彼の弟やオレの弟。
彼らと、今は俳優一本では、厳しい芸能界では生き残っていけないだろう、ということで見解は一致している。
だからこそ、共にバンドやらアイドルユニット結成、などという半分ふざけたような、半分本気なような話も出ている。

そうなれば、有海を寂しくさせるだろう。

有海はオレの頭を撫でて、にっこり微笑んで言った。

「大丈夫。
奈斗がお茶の間の人気者になっても、その他大勢の女に妬いたりしないよ?

奈斗は、私しか甘やかしたいなんて思わないもんね?」

「よく分かってるじゃん。
いい子。」

コンコン、とノックの音がした。

「あ、誰か来た。
誰だろう?」

慌てて有海がタンスの中にあったキャミソールワンピースを着て、応対した。

応対している間に、手早く服を着る。

「あ、お父さん。
それに、奈美さんに眞人さん。」

「奈斗くんと有海と、ゆっくり話がしたい。
というのも、君たちの住む場所の話だから。

特段予定もないなら、何ならこのまま泊まって行っても構わない。
どうだ?」

「あの、有海さんのお父さんがそう仰るなら。
私もぜひ、泊まっていきたいですし。」

「決まりだな。
リビングまで案内するから、ついてきなさい。
それから、そんな堅苦しい格好でいつまでもいるのも、窮屈だろ。
これに着替えるといい。」

有海の父親は、スウェットとハーフパンツを差し出してくれた。
お言葉に甘えて、それに着替えさせてもらう。

着替え終えると、リビングに案内された。
天井や床の木目に、黒い革張りのソファーがマッチしている、シックなリビングだった。

「早速だが、先程は、奈美さんと眞人さんの物件、という話が出たな。
それはそこまでしてもらう義理はないと思っている。

私たちが今いる、この家をリフォームなり、改築なり、好きにしていい。
改築やらリフォームも、宝月グループとやらの力を存分に借りるといい。

私たち夫婦が、自分たちに見合った住まいを借りて住む。
その方が、お前たちに余計なお金の負担を掛けさせずに済むだろう?
少しでも家は広いほうがいいだろうからな。

将来的には、子供の生活も考えてやらないといけないしな。
有海が音大卒業したら入籍と挙式、くらいの未来図は当然、描いているんだろ?

私は孫が見れるなら大歓迎だがな。」

ストレートに言うなぁ、有海の父親さん。
危うく飲んでいたコーヒーを吹き出すところだった。

一通り歓談にも花が咲いた頃。

「皆はゆっくりしていてね。
せっかく、有海ちゃんと奈斗くんは泊まるんだもの。大勢で押しかけちゃったお詫びも兼ねて腕を振るうわ。」

奈美さんがそう言うと、有海も立ち上がった。
どうやら手伝いたいようだ。

「いいのよ、有海ちゃんは座っていて。
うっかり、包丁で指でも切って、大事な商売道具に何かあったら大変。」

奈美さんに窘められると、しゅん、と眉を下げた有海。

「いいよ、有海。
お言葉に甘えようぜ。

有海も、自覚ないだけで、疲れてるだろ。
立て続けに挙式でピアノ演奏したもんな。

寝な?」

優しくそう言ってやると、俺の肩に寄りかかって寝息を立て始めた彼女。

「先程話に出た宝月グループの当主の挙式と、立て続けに私の親友の挙式で、クラシック曲を演奏してくれました。
その疲れは、顔には出さなくても相当だったでしょう。
私、有海さんを休ませてきますね。」

「こんなに寝付きのいい有海は久しぶりに見たんだ、我が娘ながら。

いつもは眠れなかったり、寝ても中途覚醒してしまったり。
私たち夫婦の様子が、知らず知らずのうちに娘にストレスを与えていたのだろう。
少なからず、ストレスの影響は減ってきているようだな。

……君のおかげだ、ありがとう、奈斗くん。
ウチの娘を、よろしく頼むよ。」

有海の父さんの言葉にはい、と応えて、有海の部屋のベッドに彼女を寝かせた。

ここまで抱き上げても起きないとは。
相当疲れてたんだな。

ブライズメイドの役割、余興のピアノ演奏、音大からの課題。
様々なものを両立させつつのそれは、彼女本人にとっても、かなりのプレッシャーになっていたはずだ。

「おやすみ、有海。」

彼女の額に唇を落としてやって、有海の頭を優しく撫でた。
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