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有海の負担を減らしてやるのが、彼氏であるオレの責務だと思っている。
そのためには何ができるかな……

そんなことを考えていたら、オレもいつの間にか眠ってしまっていたらしい。

「ん……」

「……起きたかしら?」

目の前にいたのは、澪さんだった。

「学園を離れてからは、こんなに近くで貴方を見るのは久しぶりね。

しばらく見ない間に、一皮も二皮も向けた気がするわ。
初めて自分のためじゃなくて、蓮太郎くんとか友佳ちゃん、皆のために動いたからかしら。

そんな奈斗くんを、誇らしく思うわ。」

「澪さん、ありがとうございます。
澪さんに出会えていなかったら、今より歪んだ人間になっていたかもしれません。
まぁ、一番は今、オレの隣で寝ている有海のおかげですけどね。」

すぅ、と寝息を立てて、有海が寝返りをうつ。
その髪に梳くように触れて、そっと有海の額に唇を落とした。

すると、ノックの音が響いた。

「ご飯、鱈と白菜のお鍋にしたわ。
出来たから、降りていらっしゃいな。」

この声は、奈美さんだ。

奈美さんの作る鍋は絶品なのだ。
もう3月とはいえ、夜は冷える。
身体を温めるにはいいだろう。

有海は、寝ぼけているのか、オレに抱きついてきた。

抱きつくと、カップ入りのキャミソールワンピースとはいえ、胸、当たるんだよなぁ。
ったく、夜寝かせないぞ?

「有海。
夕飯だって。」

有海の目が薄く開いた。

「起きた?
オレの可愛い婚約者さん。」

「ん、奈斗?
ごめん、寝ちゃってたね……」

「気にするなよ。
有海も疲れてるんだろ。

少しは疲れ取れたなら良かった。

鱈と白菜の鍋だってよ。
奈美さんの作る鍋は絶品だから、それ食べて風呂入って、夜はもうひと頑張りしてみる?」

「奈斗ったら。
すみません、澪さん。
もう少しお話したいこと、たくさんありましたのに。」

「いいのよ。
貴女も、奈斗くんも。
人のために頑張ることって、自分のために頑張るのの3倍くらいエネルギーを使うの。
それをきちんとやってのけたんだから、あなたたち2人は。

もっと、自分を労って、褒めていいのよ。」

「私、自分を労ったことも、褒めたこともなかったので、その言葉は新鮮でした。

少しずつ、やってみようと思えているのは今隣りにいる奈斗のおかげもあります。

ありがとうございます。」

「有海、降りようぜ。
せっかく作ってくれた鍋が冷めて美味しくなくなっちゃう。」

そうだね、と納得した有海は、オレと澪さんの前に立って、リビングまで歩いていった。

鍋を囲みながら、話題は尽きなかった。

澪先生のいる賢正学園で、有海の発表会を彼女に気付かれないように、サプライズで行くために行き先をホワイトボードに書いた。

帰宅すると、オレのやんちゃな弟や、オレより年下の子たちに有海とデートするかのように書き換えられている話。

バチェラーパーティーで、プロポーズコンテストを開催し、評価が良かったのでオレが先陣を切ってプロポーズした。

相手が有海だから成功したようなもので、他の女性だったらドン引きだと酷評されたこと。

賢正学園が手狭になってきたので、敷地を移す話や、いっそのこと廃校になった学校の敷地をそれっぽく使う案も出ていることを、澪さんは明かしてくれた。

できることがあったら協力する、と言って、鍋を囲んでの歓談は一度終わりにして、入浴を勧められた。

お風呂が広いので、1人だと持て余す、ということで2人で入るのもいいんじゃない、と有海のお父さんに言われた。
有海は顔を真っ赤にしている。

「オレは、今も赤い有海の顔がもっと真っ赤になること、したいんだけどな?」

耳元で言うと、分かった、といつもの有海にしては珍しい、か細い声で言った。

「まだ照れてるの?
この間も、蓮太郎の別荘で一緒に入った仲じゃん。
それに、いざ、数年後に籍入れたらこういうのが毎日かもしれないんだよ?」

有海の顔は茹でダコのようになっている。

「んも、そういう甘い台詞は、皆がいるところじゃなくて、2人きりのときがよかったの!」

「そういうことなら、早く言ってくれればよかったのに。」

有海に案内されて、少し手狭かと思う脱衣場の先の浴室に向かった。
片手は有海自身の着替えで塞がっているので、階段へのガイドはオレがした。

ヒノキの浴槽と、ヒノキで統一された壁と床。
どこかの高級ホテルの露天風呂付客室にあっても不思議じゃない気さえしてくる。

シャワーで身体を温めた後、自然にスキンシップが激しくなる。

「ホントにさ、有海が大学卒業した年に籍入れちゃうか。」

そう言いながら、膨らみを撫でたり、肩の辺りにシルシをつける。
彼女の身体を撫でるように優しく洗って、泡を洗い流す。

「うん!
それはすごく賛成!
きっと大事に出来ると思うの、2人の時間を。
今から練習だね?」

有海はそう言って、洗い終えたばかりのオレの脚の間にある膨らみを優しく咥えた。

「っ、ヤベ……」

そのまま、手で支えながら、上下に動かしてくれる。

「刺激、やべぇ……
どこでこんなの覚えてきたの?
っく、あ!」

思わぬ刺激に出てしまった液体。
ゴクリ、と喉を鳴らす音がした。

「たまにはいいね?
余裕ない婚約者さんを見るのも。
たまにはこうしてあげるね?

……この苦さ、慣れないけど。」

口直しとして唇を重ねてやってから、愛しい婚約者を抱き上げて浴槽に浸かった。
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