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……いい出来だった。

オレとメイの基本情報から、オレとメイがお互いをほんの少し、異性として意識し始めた日のことまで、ドキュメンタリー形式でまとめられていた。

いつか、オレが入ったハナと、ミツとの三角関係に決着をつけるために、今の妻、メイには言わずにアメリカを発った日の手紙のことまでドキュメンタリーにまとめられていた。

これ、絶対、村西さんか遠藤さんの仕業だな。

ときどき、ドキュメンタリー映像は、インタビュー映像を挟んでいた。

ハナやミツ、オレの幼なじみだったり、オレの祖父母、奈斗や将輝、一成や真まで、1人でインタビューに答えていた。

『レンったら、私は、私を通して、他の子を見ていることに気がついていたから、早く素直になってほしかったんです。
ミツ……今は私の婚約者さんと、彼の目の前でイチャついていたりしたんですけど。

それでも、文化祭の日の夜、好きでもないのに私に告白してきたり、こじらせてるなぁ、って思ってました。

でも、今は本当に好きな人ときちんと家族になった彼を、幼なじみとして、誇らしく思っています。』

こう答えたのはハナだ。

『幼少期から幼なじみとして一緒にいる親友がきちんと自立して、人を導けるくらい人望がある人間に成長する過程を、全ては見ていないものの、横で見ていると、自分自身も頑張らなきゃと感化されます。

そんな彼を、幼なじみだからこそ何かあればサポートできる存在でありたいです。』

ミツは真面目だ。

皆がそれぞれ、オレのいいところも、きちんと伝わるようにしながら話してくれる。
オレだけじゃない、メイのいいところも忘れていない。

『生まれ育った街を離れて、最愛の人と異国で暮らす。
しかも、旦那さんは宝月グループの当主。
普通の、そんじょそこらの夫婦より、支える責任も、かかるプレッシャーも大きい。

それでも、バシッと決断できたことこそ、新婦であるメイちゃんの強さだと思う。

そんなメイちゃんを支えられるのは、新郎の蓮太郎くんしかいない、って感じる。
あなたたち2人なら、この先何が起こっても、2人で、いいえ。
上手く周囲も頼りながらうまくやっていける。
そう信じてます!』

由紀ちゃんが、あの場にいた皆の気持ちを代弁してくれている気がしてならない。

こんなにいい仲間を持てて、オレとメイは幸せ者だ。

「皆にも、お礼を言っておいてくれ。
宝月グループの家宝としてしまっておきたいくらい、大事にさせてもらう。

本当に、最高すぎるよ、お前ら。」

シアタールームから戻ると、大量にお菓子が並べられていた。
市販の個包装のお菓子から、ドーナツやマカロン、クッキーまであった。

「蒲田様と御劔様、どうぞお召し上がりください。
旦那様と奥様のために素敵なプレゼントをくれたささやかなお礼でございます。
個包装のお菓子はお持ち帰りも可能ですので、前向きにご検討ください。」

「……ありがとうございます!」

言うが早いが、ハナは目の色を変えてドーナツやマカロンを口にしている。

「お礼を言われるほどのことはございません。
旦那さまと奥様の挙式に、ご尽力くださった皆様方ですから。
少しずつで良いから小さなことから恩返しをしていきたい、というのが我々の総意でございます。
どうぞお気になさらず。」

「恩返しなんて、いくらでもできると思うけどな。
オレやハナ、有海ちゃんは大学に通う身だ。

事故や自然災害のせいで交通機関が麻痺して講義や試験に間に合わないなんて事態、これから嫌になるほど遭遇するだろう。

その時に助け舟をくれるとかな。」

「私は時間かかるわ、確実に。
だから、何年先になるか分からないけど、挙式を手伝ったカップルに御礼の意を込めて、別荘に招待!
その時はそれぞれ結婚式済ませて子供いたりするかもしれないけど……
そこで修学旅行みたいな過ごし方する、とかもまた一興じゃない?
その方が夢があるよ!

そういう感じでワイワイ集まって盛り上がって昔話に花を咲かせるほうがレンは好きでしょ?」

「さすがは幼なじみでございます。
よくご存知で。」

武田が静かに手を叩いた。

「それは、お前らが子供2人産んだ後にするか。
お前らのことだ。
オレたち夫婦もだが、1人で終わらせる気はないんだろ?」

「多分ね。
それは、お互い、無事に弁護士と検察官の夢を叶えてから考える。」

まっすぐ、オレの目を見返して言う幼なじみ。

「……その時を、楽しみにしてる。
オレは、幼なじみ2人が夢を叶えるためのサポートなら何でもしたい。
それも、立派な恩返しだと考えてるから。」

「……私もよ。
しばらく検察官として法廷には立てない分、いろいろ教えてあげられることも多いはずなの。

何か困ったら力になるわ。」

「ありがと、メイちゃん。」

「頼りにさせてもらう。
なんだかんだ言って、来週には入学式だ。
法曹界への第一歩を踏み出すことになる。

何か心配なことがあったら、経験者に問うとしよう。」

ミツが買ったスーツにオレがアドバイスをした後、満足そうに頷くと、幼なじみ2人は仲良く帰っていった。

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