ボーダー
……オレの……カン違いだったんだな。

ハナの好きな人……レンじゃなかったんだ。

文化祭の最終日の日の夜、顔を貸せと俺の家に訪ねてきたレン。

彼は意外なほどあっさりと、玄関口で告げたのだった。

「お前……カン違いしてね?
……ハナの好きな人。
オレじゃねぇから。
だってオレ、フラれたし。」

「マ……マジか……。」

レンは、悲しんだり寂しがったりはしておらずむしろ、清々しい顔をしていた。

「お前、ハナ以外に好きな女がいるな?
向こうに置いてきたか。」

「目ざといな?そういうこと。
俺は、ハナとお前と、あとはハナの周りのもどかしい奴らをくっつけるのに専念するわ。

インキャンでは、俺らと同じ班に黒沢 一成《くろさわ かずなり》と、相原 真《あいはら まこと》を入れるぞ。

その野郎2人は、ハナの友人に片想い中らしいからな。

その計画は、ハナがインキャン前に体調を崩して学校を休んだ日に行われた。
班決めがその日だったのだ。

ハナは勘の鋭い女だ。
勘付かれては困るので、好都合だった。

ハナに……謝らなきゃな。

……インキャン当日、兄さんが横浜まで車で送ってくれるって言ってた。
レンも一緒に。

ハナ……アイツも乗せたい。
先に行ってるのかな?

もしくは、ギリギリに家を出て、遅刻しそうで走っている可能性もあるか。
そのまさかだった。

ふとドアミラーを覗くと、見覚えのあるミリタリーコート、赤ブロックチェックシャツに、ショートパンツにニーハイ。

髪はアップにしてるけど、間違いなくハナだ。

……やっぱギリギリに家出たんだな。

走るのは体力的に限界なのか、息切れをしている。

ったく、見ていられないな。

「ミツのお兄さん、車一旦停めてください!
ハナが来た!」

目を見てオレの言いたいことがわかったらしいレン。
さすがは幼なじみだ。

「……ミツ?
…嘘…」

かなり驚いているハナの腕を引っ張って、後部座席に乗せる。

「す、すみません。
私まで乗せてもらっちゃって。」

「横浜地裁に用があるから、ついでだ。
だから横浜駅までしか送っていけないけど。」

「……そんな!
とんでもないです!
ありがとうございます!」

兄さんに丁寧に挨拶しているハナ。
やっぱ……可愛いな。
その上、礼儀正しい。

お嬢様みたいだよな、雰囲気が。

「……ずっと……避けててごめんな。
ハナ。全部、レンから聞いた。
好きな奴、レンじゃないんだろ?

悪かった。
ツラい思いさせたよな。」

「謝るのは私もだよ。
私こそ、ハッキリ和貴くんの前で好きな人言わなかったから。
私なら全然、大丈夫だよ?」

ハナは大丈夫って言ってたけど、目が腫れてる。
泣いたんだろ?

しかも眠そうだ。

「大丈夫じゃないだろ。
レンの母さんから聞いたよ?
インキャンの3日前に熱出したって。」

オレは今もまだ顔が赤いハナの額に触れながら言う。
熱はないようだ。

「気をつけろよ?
眠いなら着くまで寝てていいから。」

しばらくすると、ハナはオレの肩に頭をもたせかけながら爆睡してた。

……それにしても、無防備すぎだろ……
ショートパンツにニーハイソックスって。
オレを誘ってんのかよ……

車の中にハナと二人っきりだったら、間違いなく襲ってるな、オレ。

オレは、自分の着ていたジャケットを、そっとハナの膝にかけた。

そうでもしなきゃ理性保たねえよ。
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