ボーダー
〈友佳side〉
……ハナ、部屋にもいないって……
どこ行ったんだろう。
心配……。

夕食の後のお風呂には間に合うよね?
いっぱい、恋バナするって、決めてるんだから間に合ってよね?

早めに夕食会場に向かおう。

そう思ってエレベーターに乗ると、一般の宿泊客の波に埋もれてしまった。
前に進むことさえままならない。

あれ、確か、一般客のエレベーターには乗っちゃダメだったんだっけ。
確か、インキャンのしおりにそう書いてあった記憶がある。

どうしよ。

目に涙が溜まる。

……泣きそうだ。

「すいません!
通してください!
降ります!」

高いと低いの中間みたいな、だけど聞いてて元気が出る声が聞こえた。
すると、誰かにしっかりと腕を掴まれて、エレベーターから降ろされた。

昔より太い腕。
昔より低くなった声。

「まったく、気をつけろよな。
昔と変わらねぇな。おっちょこちょいなとこ。……ごめんね?
友佳。
思いっきり腕掴んじゃったけど……
大丈夫だった?
跡になってない?」

「う…うん。大丈夫。
ありがとう……」

恋人でもないのに、自然に腕を掴まれて。
その温もりに安心したと同時に、跳ねる心臓。

ウチらが使うように指示されている、角を曲がった先にあるエレベーター。
そこに向かうのかと思ったら、彼は私の腕を掴んだまま、手近なドアを開けた。

開けた先は、非常階段。
とりあえず、この場をやり過ごす算段か。

「友佳。
ハナちゃんが心配?
そうだよな。
ボーッとしてたから、エレベーター間違えたんだろ?
ハナちゃんは優がきっと見つけてくれるから、
俺と一緒に待ってて?」

ポンポンと、泣きそうな私の頭を撫でてくれる一成。
暫しの沈黙の後、彼は私から目線を逸らさないまま、こう告げた。

「……あ、あのさ、いきなり、こんなこと聞くのもどうかと思う。
でも、気になるから聞く。
その……友佳は好きなヤツとかいるの?」

いきなり聞かれたから、かなりビックリした。

頭をよぎるのは、朝ハナが言った言葉。

『好きなの?一成くんのこと。
恋愛は勢いだよ、頑張れ!』

朝からそうだ。
昔とは違う、成長した姿を見て、目が離せなくなっていた。

昔は、仲間外れにされてた一成と遊んであげる側の人間だった。

それが逆転したのは、いつの頃からだっただろう?
よく私と遊んでくれて、母の日のプレゼント選びにも、嫌な顔一つせずに付き合ってくれた。

ずっと一成ばかりを目で追って、その言動にいちいちキュン、ってして……

私……

一成が、好き。


「いるよ。
今……私の目の前に。
貴方のことよ、一成。

貴方が好き。」

い、言っちゃった……!

「女の子から先に言われるなんて、な。
……俺も……好きだよ?
友佳。
保育園のときから……ずっとね。」

一成の返答は、嬉しいもので。

「一成!
ありがと!
嬉しい!」

一成にぎゅって抱きついて、身体を離すと、上目遣いで彼を見つめる。
キス、したい、って……気付いてくれるかな?

そっと顔が近づいて、柔らかい感触を唇に感じた。

ファーストキスは甘酸っぱいとかいうけど、そんなことはなくて。
ドキドキはするけど、一瞬で終わって、もう終わったの?って感じがする。

「友佳?
夕食会場……行こっか。」

もう終わりなんて、ずるい。

「かっ……一成……
もっかい……して?」

一成に抱きしめられながら、舌が絡まるキスをされる。
一成の制服のズボンの真ん中の感触に、腰が引けてしまう。
初めてだもん……!

「んー?逃げないの。
いずれはさ、見ることになるんだよ?
友佳。
それとも、俺のは見たくない?」

ふるふると首を横に振る。

「初めてだから、こんなになるんだ、ってちょっとビックリしただけだよ?

……ぶっちゃけ、保育園の頃は意識してなかったけど。
男の人なんだな、って改めて思う。
あの頃より、逞しくなった腕とか見ると特に。
……あと、こことかね?」

一成のを見たくないわけじゃない。
行動で示さないと、伝わらないと思った。
制服のズボンの上から、膨らんでいる箇所をそっと触る。

「友佳。
気持ちは分かったから、可愛いことしないでほしいな?
初めてがさ、こんなところは嫌でしょ?
俺もここでする気はないけど。」

「……もう!一成のエッチ。」

するなら、家のベッドとかがいい。
こんなトコロは絶対に嫌だ!
それに、裸を見られるなら、もう少し胸のサイズも大きくしておきたいし、痩せておきたい。

「……それは、好きな子に対してだけだよ?
友佳。」

耳元で囁かれると、顔を真っ赤になるのが分かった。

どちらからともなく手を繋いで、非常階段を出て、夕食会場に向かった。
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