ボーダー
「悪い、メイ。」

上から降ってきた、蓮太郎の低い声。
そう言われて、彼が私の胸に触れてしまったことに気付く。

触られたことにすら気が付かなかった。

それくらい、蓮太郎の触り方は優しくて。

お詫びのつもりか、私の頭を優しく撫でる蓮太郎。
それに甘えるように、私の方から、わざと少し大きさが増した胸が当たるように身体を押し付ける。

欲情させられているだろうか。
現に、蓮太郎のズボンの真ん中は少し膨らんできている気がした。

蓮太郎から肩をそっと掴まれるようにして、身体が離れた。

その後、私の目を見つめて彼にこう問われた。

「……メイ、やっぱり何かあったんだろ?
……肩と脚にアザできてる。」

え……?

な……何で知ってるの?

脚にアザあること。

バレないように、タイツ履いて隠してるのに。

「……っ!
アメリカで……いろいろあったって言ったはずよ。
…そろそろ出国の時間だから、行くわね?

日本を発つ前に、思いがけずボーイフレンドに会えて嬉しかったわ。」

……こんなこと言ったら、また蓮太郎には素直じゃないって……思われるのかな。

かなり嬉しかった。
だからこそ、蓮太郎のことをボーイフレンドと表現した。
いつか、そうなりたいと願って。

久しぶりに私服姿の蓮太郎が見れて、
カッコいいって本気で思った。

蓮太郎に想いを伝えれば、今よりも格段に幸せになれることは確実だ。

彼は……私の過去の境遇も、不幸も……全部知ってるから。
優しい彼なら、アイツのように嫌がる私を無理矢理抱いたりはしないだろう。

私が身体を押し付けるだけで蓮太郎のズボンの真ん中が元気になるのだ。
何ラウンドまでいくかは分からないが、アイツよりは優しく抱いてくれる、はずだ。

アメリカへ帰っても、相談相手ならたくさんいるし、何とかなるはず。

蓮太郎の同僚の村西さんに、遠藤さん。
彼らは信頼の置ける歳上の大人だ。

蓮太郎の祖父母だっている。

もう少しだけ、頑張ってみる。

蓮太郎に相談するのは、どうしても寂しくなったり、耐えられなくなったときにしようと思っていた。

でも……この時の私はバカだったの。

日本からアメリカに帰った後、何ヵ月もアイツからの電話が来ることはなかった。
だから私も安心しきって、普通に法廷に立ったりしながら、普通どおりの毎日を生活送っていた。

あの時あの場所で何もかもを、蓮太郎。
他でもないあなたに打ち明けて、相談していたなら、あんなことにはならなかったのかも。
< 87 / 360 >

この作品をシェア

pagetop