ボーダー
その数週間後、仕事前に飲み物を買おうと、ラウンジにある自動販売機に向かった。

『何?お父さん。
ええ、結果は出たわよ。

ようやく私も、結果を受け止められるようになったわ。
結果聞いてから、ショックで倒れたみたいなのよね。
その時のことは覚えてないけど。

お父さんとは生物学的に父親である可能性はかなり高いって。
記憶もおぼろげな早くに亡くなったお母さんとも生物学的に母親である可能性はかなり高いって結果も貰ったわ。

アイツ……亜子、
ホントは名前も呼びたくないんだけど呼んじゃった、とはもちろん、生物学的母親じゃないって結果が出ている。
それは良かった。
アイツと母親だなんて、吐き気がする。

亡くなった母親のサンプルになるもの、とっておいてくれてありがとうね。

うん、ありがとう。
また何かあったら連絡するね。

お父さんも仕事でしょ?
気をつけてね、南機長。
よい旅を!』

電話を切った明日香は、ふうと軽く息をつく。

そこに現れたのは、室長だ。

出ように出られず、思わず柱に隠れる。
何、コソコソしてるんだ。

「お、電話か?明日香」

「ええ。私の父親からです。
父のことは優しくて好きなんですけどね。
私の母親は、私が小さい頃に事故で亡くなったの。
信号に入ってもスピードを落とさない暴走車に轢かれた、不幸な事故だったということは聞きました。


それから、父は亜子っていう女と再婚したんです。
前の母の遺伝子を継ぐ、自分に似てない私が気に食わないのか、みみっちい嫌がらせを受けてますけどね。
わざと食事を減らしたり、帰ってくると知ってて玄関の鍵を閉めたり。
やることが子供みたいで困っちゃいます。

私という連れ子がいることを承知の上で再婚した、はずなんですけどね。

だから最近、家に帰りづらくて。
ご厚意で伊達さんの家に泊まって行くことも多いんです。」

「そうか。
まぁ、うまくやれよ。
何かあったら相談しろよー。
南 亜子は俺の父の前妻でもあるから、多少は対処法を知ってるからな」

さらっと爆弾発言して行ったな、室長。

「ん?
アイツが室長の父親の前妻?
あれ?どういうこと?
じゃあ私と室長の関係って……」

混乱している様子の明日香。

「今は、深く考えなくていいんじゃないかな。室長は俺の兄でもあるから、一緒になれば自動的に室長は明日香にとっては義理の兄になるわけだし。」

自販機から出てきた缶コーヒーを取りながら言う。

「ちょっと徹……じゃなかった、伊達さん?
職場では名前呼び捨て禁止ですし、サラッと始業前に何言ってるんですか!
照れるじゃないですか!
仕事に集中できなかったら伊達さんのせいですからね、責任とってくださいよ!」

顔を真っ赤にしながら、缶コーヒーをゴミ箱に放り投げた後、フレアスカートを揺らしながらラウンジを出ていった明日香。

可愛くてどうにかなりそうだ。

いたたまれなくなって早めにエージェントルームに戻ることにした。

ラウンジを出た瞬間、誰かに腕を引っ張られて近くの柱に思いきり叩きつけられた。


「何すんだよ。」

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