ボーダー
その顔をキッと睨みつけると、オレの視線の先には柏木室長もとい、オレの兄がいた。

さっきの明日香との会話、聞いてたのか。

「おい徹。
南のやつ、家に泊めてるのか。」

「……泊めてるよ。
ほぼ家にいるから、同棲してるに限りなく近い状態ですけど。」

「…お前な……
管理職の人間が、規則破ってどうする?」

しまった。

室長怒らせると………怖いんだよな……

しかも、『エージェントルームの社員同士は恋愛禁止』

っていうルール、ことごとく破ったし。

殴られることも覚悟したのに、拳が飛んでこなかったのには驚いた。

殴らないなら殴らないでいいから、襟首掴んでる手を放してほしい。

俺の襟元から手を放した室長。

「んで?お前ら、本当に一緒になる覚悟は出来てるんだろうな。
俺が義理の兄になる、ということは、俺も少なからず、亜子と接点を持つことになる。
もし結婚するなら、明日香は俺にとっても義理の妹になるからな。

俺も、父親の元嫁と関わりを持つことになる。
その覚悟は出来てるよ。

悪く言いたくはないが、相当性根がねじ曲がってるやつだ。
今は、そんな奴がお前の近い将来の奥さんの姑だぞ。
大丈夫か?」

大丈夫も何も。
今更何を、迷うことがある。

「大丈夫。
面倒なヤツをあしらう術なら持ってる方だと自負してる。

アイツは、明日香の父親はパイロットでな。
世界中飛び回ってるからあまり家にも帰れなくて、たまに知り合いの家に明日香を預けていたこともあったらしい。

ずっと1人で寂しい想いをさせてきたんだ。

今度は俺が、ちゃんと家族になって守ってやらなくちゃダメだし、それが出来る人間になりたいって思ってる。」

室長は俺の言葉を、ずっと目を閉じて聞いていた。

「覚悟はあるんだな。
一筋縄じゃいかない茨の道も、お前らなら大丈夫だ。
俺も尽力する。

……俺も最近親父に聞いて知ったんだが、柏木の家系は割と裕福だそうだ。
事情を話せば、オレの奥さんの祖父母も何かしら力になってくれるはずだ。

今はマレーシアにいるがな。
旅行がきっかけで気に入って移住したそうだ。

近々、何とか俺とお前と、明日香の3人の休みを調整してみる。
有給休暇はまだ十分に残っていたはずだ。

マレーシアに行くぞ。
俺の祖父母に知恵を借りると同時に、異母弟であるお前のことも、その奥さんになる女性のことも紹介しないとな」

こんな、順調に事が進んでいいのだろうか。

そう思いながら、室長と一緒にラウンジを出ると、エージェントルームに向かうエレベーターに乗り込んだ。
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